加齢に伴い筋力が低下すると、つまずきや転倒が起こりやすくなり、日常生活に支障が出ることがあります。活力ある毎日を送るためには、日々のトレーニングが欠かせません。本記事では、高齢者が無理なく筋肉をつけるためのトレーニング方法と注意点について詳しくご紹介します。
一般的に、年齢を重ねると筋肉量は徐々に減少することが知られています。しかし、高齢者でも適切なトレーニングを行えば、筋肉を増やすことは可能です。次からは高齢者が無理なく筋肉をつけるためにできる取り組みについて、わかりやすく解説します。
結論から言うと、高齢者でもトレーニングによって筋肉をつけることは可能です。
実際に90歳前後の高齢者を対象とした研究でも、筋トレを行うことで筋肉量が増え、筋力が向上することが確認されています。
また、高齢者が筋肉量を増やすためには、週に2回程度の筋トレを継続することが必要とされています。
高齢者が筋肉を効率よくつけるためには、筋トレと有酸素運動を組み合わせて行うことがおすすめです。
加齢に伴い、筋肉の材料となる筋タンパク質の合成を促すホルモンの働きが弱くなるため、筋肉がつきにくくなります。有酸素運動にはホルモンの働きを高める作用があり、筋肉がつきやすい体づくりに役立ちます。
ただし、有酸素運動だけでは筋肉量の増加はわずかです。そのため、筋肉を増やすための「筋トレ」と、筋肉をつきやすくする「有酸素運動」の両方をバランスよく取り入れることが重要です。
高齢者が筋肉をつけると、さまざまな良い効果が期待できます。ここでは、主なメリットを5つご紹介します。
高齢者が筋肉をつける最大のメリットのひとつは、「転倒予防」です。
筋肉量や筋力の低下(サルコペニア)が進むと、歩幅が狭くなったり、バランスを崩しやすくなったりして、転倒リスクが高まります。高齢者の転倒は、介護が必要となる原因になりかねません。
筋トレによって筋肉をつけると、バランス能力が向上し、転倒しにくい体づくりにつながります。さらに、歩幅が広がることで歩行機能の改善も期待できます。
筋トレは糖代謝を改善し、糖尿病の予防や改善に役立ちます。また、脂質異常症、高血圧、メタボリックシンドロームといった生活習慣病の予防・改善効果も期待できます。
これらの疾患は心筋梗塞や狭心症などの重大な病気につながるため、筋トレによる予防は健康に長生きするためにも重要です。
筋トレによって筋肉を強化することで、関節にかかる負荷が軽減され、腰痛や膝痛などの関節痛の予防につながります。さらに、ストレッチを取り入れて関節を動かすことで可動域が広がり、より快適に動かせるようになります。
筋トレは骨粗しょう症の予防にも効果的です。骨粗しょう症とは、骨の密度が低下してスカスカになり、骨折しやすくなる状態のことです。高齢者が転倒して骨折すると、寝たきりになるリスクが高まります。
週に1~2時間程度の筋トレによって、骨に適度な刺激を与えると、骨密度が高まり、骨を強くすることが知られています。
筋トレで体力が向上すると、歩く、立ち上がるなど日常生活の動作がスムーズに行えるようになります。この「できる」という自信は、精神的な健康維持にもつながります。
高齢者が筋肉をつけるには、特に下半身を中心としたトレーニング方法がおすすめです。筋肉は上半身より下半身のほうが早く衰えるといわれています。歩行機能やバランス能力を保ち、転倒を防止するためにも、下半身を中心に鍛えましょう。
ここでは、高齢者におすすめの簡単なトレーニング方法を5つご紹介します。道具は不要で、自宅でも無理なく実践できるので、ぜひ試してみてください。
スクワットは、太ももやお尻など下半身全体の筋肉を鍛える基本的なトレーニングです。
両足を肩幅に開いて立ち、3~4秒かけてゆっくり膝を曲げ、膝が直角になるまで腰を落とします。その後、3~4秒かけてゆっくり膝を伸ばして元の姿勢に戻します。
ポイントは、膝に負担をかけないよう、椅子に座るようなイメージでお尻を後ろに突き出し、股関節をしっかり曲げること。バランスが不安な方は、実際に椅子を使って座る・立つ動作を繰り返しても効果的です。
プッシュアップは、二の腕だけでなく、胸の筋肉(大胸筋)を中心に鍛えるトレーニングです。いわゆる腕立て伏せですが、負荷を軽くするため膝をついた状態で行いましょう。
床に手をつき、頭から膝までを一直線に保ち、ゆっくり肘を曲げ伸ばしします。肘は伸ばしきらず、少し曲げたところで止めるのがポイントです。
両手の間隔は肩幅よりやや広めが基本ですが、負荷を調整したい場合は手の幅を変えてみましょう。きつい場合は、立ったまま壁に手をつけて行う方法もあります。
ブリッジは、お尻や背中、太ももの裏を鍛えるトレーニングです。
仰向けに寝た状態で膝を曲げ、ゆっくりとお尻を持ち上げます。腰に力を入れて10秒間静止し、その後、ゆっくりお尻を下ろします。このときもお尻が床につかないように止めると、より効果が高まります。
かかと上げは、リハビリにも使われるトレーニングで、ふくらはぎ、足裏、お尻の筋肉を鍛えることができます。
肩幅に足を開いて立ち、膝を伸ばしたままかかとを上げます。5秒間静止した後、かかとを床につけないようにゆっくり下ろし、その動作を繰り返します。バランスが不安な場合は、椅子や壁に手を添えて行いましょう。
仰向けに寝て、膝を伸ばしたまま片足を持ち上げます。10秒静止した後、かかとを床につけずにゆっくり下ろす動作を繰り返します。左右交互に行いましょう。また、横向きに寝て足を上げる動作も同様に行うと、さらにバランスよく鍛えられます。
せっかくトレーニングを行うなら、できるだけ効率よく筋肉をつけたいものです。ここでは、高齢者が筋肉をつけるために意識したいトレーニングのコツを3つご紹介します。
トレーニング中の動作は、ゆっくり行うことを意識しましょう。目安としては、3〜5秒かけて動作を「上げ」、同じく3〜5秒かけて「下ろす」のがおすすめです。
一般的に、自分の体重を負荷とするトレーニングは強い効果を得にくいとされていますが、勢いをつけず動作をゆっくり行うことで、軽い負荷でも十分に筋肉を鍛えることができます。
高負荷のトレーニングは腰や膝に負担をかけやすいため、特に高齢者は軽い負荷の運動をゆっくり丁寧に行い、安全かつ効果的に筋肉をつけましょう。
トレーニング中は、鍛えたい筋肉を意識しながら力を入れ続けることが大切です。
筋肉に力を入れると血管が圧迫され、血流が一時的に悪くなります。この状態は筋肉に強い刺激を与え、筋肉の成長を促進します。
動作中に力を抜かず、常に筋肉の緊張を保つように意識することで、トレーニングの効果を高めることができます。
もしトレーニングの時間を自由に選べるのであれば、午後に行うとより効果的です。
体温や筋肉の働きは、昼頃から夕方にかけて高まる傾向にあります。この時間帯にトレーニングを行うと、身体の機能が最も高まった状態で運動できます。
さらに、午後にトレーニングを行うことで、就寝時に行われる筋肉の回復にも良い影響を与えるとされています。
前述のとおり、筋トレの効果を高めるためには、有酸素運動もあわせて取り入れることが重要です。
なかでも、高齢者におすすめなのがウォーキングです。加齢による筋肉量の減少を予防するには、「早歩き」と「ゆっくり歩き」を数分おきに繰り返すウォーキングが効果的です。ややきついと感じる程度の早歩きを取り入れることで、筋肉をつけるだけでなく、持久力の向上にもつながります。
また、わざわざウォーキングの時間を設けなくても、日常生活の中で歩く機会を増やす工夫も効果的です。例えば、買い物に歩いて行く、出かけた際に一駅分多く歩くなど、日常に無理なく取り入れることができます。
万歩計などで歩数を記録しながら、まずは「今より1,500歩多く歩く」ことを目標に始めてみましょう。
高齢者はすでに体力が低下している場合もあるため、急激な筋トレは注意が必要です。ここでは、トレーニングを行う際の注意点と、筋トレが難しい場合の筋力アップ方法をご紹介します。
筋トレは腰痛や膝痛の改善に役立つ一方で、無理をすると関節に負担をかけ、逆効果になることもあります。
トレーニングを行う際は、痛みや違和感が悪化しない範囲で行い、特に姿勢を正しく保つことが大切です。回数も無理をせず、心地よい疲労感を感じる程度で終了するのが理想です。
また、運動前後にはストレッチを行い、筋肉をしっかりほぐしてからトレーニングを始めましょう。筋肉の柔軟性が高まり、関節への負担が軽減されます。
空腹時にトレーニングを行うと、エネルギー不足により筋肉が分解されるおそれがあります。可能であれば、2~3時間前までに食事を済ませておきましょう。
また、トレーニング前にはスポーツドリンクなどで軽くエネルギーを補給しておくことがおすすめです。
筋トレやウォーキングが難しい場合は、生活の中で自然に活動量を増やすことを意識しましょう。
厚生労働省が発表している「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(概要)」によると、高齢者に推奨される身体活動量の目安は1日40分以上とされています。
この「身体活動」には、運動だけでなく、日常生活での動きも含まれます。つまり、横になったり座ったりせず体を動かすことすべてが対象になります。活動量を増やす生活行動については下記の通りです。
無理のない範囲でこれらを生活に取り入れ、活動量を徐々に増やしていきましょう。
高齢者が筋肉をつけるためには、トレーニングだけでなく食事にも注意を払うことが大切です。ここでは、筋肉づくりに役立つ食事のポイントをご紹介します。
筋肉をつくるためには、特にタンパク質の摂取が欠かせません。タンパク質は体内でアミノ酸に分解され、筋肉の材料となります。筋トレとあわせて適切にタンパク質を摂取することで、筋肉量の増加が期待できます。
肉・卵・乳製品・大豆製品などは代表的なタンパク源ですが、脂肪分が多かったり、体内で利用される効率が低かったりする場合もあります。そこでおすすめなのが「魚肉たんぱく」です。魚肉たんぱくは下記のような特徴があります。
これらの特徴から、魚肉たんぱくは効率よく、かつ質の高いタンパク質を補うことが可能です。
毎日の食事だけで十分なタンパク質を摂るのが難しい場合は、サプリメントの活用もひとつの方法です。特におすすめなのが、ペプチド状のサプリメントです。
ペプチドとは、タンパク質が消化酵素で分解され、数個のアミノ酸がまとまった状態のことを指します。「通常のタンパク質よりも素早く吸収される」「消化の負担が少ない」といったメリットがあります。
肉や魚からタンパク質を摂取する場合、吸収までに3〜4時間かかる一方、ペプチドは30~40分と短時間で効率的に体内に取り込むことができます。
タンパク質は20種類のアミノ酸から構成されていますが、これらのうちひとつでも不足すると、十分に筋肉づくりに使われません。その点、魚肉ペプチドは、20種類すべてのアミノ酸をバランスよく含んでおり、体内で合成できない「必須アミノ酸」も理想的な比率で含む という特徴を持っています。
おすすめの魚肉ペプチド製品としては、鈴廣かまぼこ開発の「サカナのちからS for シニア」があります。「サカナのちからS for シニア」は、魚の白身を酵素分解してつくられた天然素材のサプリメントで、摂取後30~40分で速やかに体内に吸収され、必要なアミノ酸を効率よく補給することが可能です。
高齢者が筋肉をつけるためには、日々のトレーニングが欠かせません。体力に合わせて、無理のない簡単な方法で継続的に体を動かしていきましょう。あわせて、筋肉の材料となるタンパク質をしっかり摂取することも大切です。
筋トレと食事を組み合わせた取り組みを続けることで、筋力や体の機能を維持でき、健康的な毎日を送ることができます。できることから少しずつ始め、いつまでも元気に過ごしましょう。