かまぼこができるまで⑩「成形・上掛け」職人 熊英治

鈴廣かまぼこでは国家資格を持つ職人が、日々魚と向き合い、素材の力を感じていただけるかまぼこを作っております。

全13回の連載で伝統的なかまぼこの作り方についてお伝えしています。今回の工程「上掛け」。かまぼこがついに美しい扇形に仕上がります。ライターの土屋朋代さんに、職人の熊英治をインタビューしていただきました。

*本連載は「鈴廣の職人技」サイトの職人インタビュー(聞き手:土屋朋代)から転載したものです。

かまぼこづくりの花形、「上掛け」

中掛けでまでで形作られたかまぼこに、最後に薄くつやのあるすり身をのばし完成形にするのが「上掛け」だ。紅色のかまぼこの紅色の部分を付ける工程というと分かりやすいだろう。表面に均一な厚みですり身をのばすのは、手先の器用さが不可欠。しかも、最後の工程なので失敗は絶対許されないというプレッシャーの中、1本あたり約30秒という一瞬に全神経を注ぐため、精神力も問われてくる。この高度な技術を必要とするのが「上掛け」なのだ。

通常20年あまり修行した職人でしかこの工程を任されることはないそうだが、そんな「上掛け」を得意とするのが、今年入社14年目の熊英治だ。


本人は、「手先は器用ではない」と謙遜するが、かまぼこづくりのセンスはチーム随一。負けず嫌いな性格も手伝って、入社後からメキメキと力をつけ、短い修行期間でこの難しい工程をマスターした。

「引き起こしや中掛けの工程は数人で作業するのですが、上掛けは1人きり。1日約300本のかまぼことひたすら11で向き合うのは、孤独ですよ。」

そんな緊張感のある状況にどう向き合っているのか尋ねると、

「もはや無の境地ですね。のってくると時間の経過はあっという間。で、ふと我に返った時にどっと疲れが出るんです。」

作業の動き自体は小さいが、精神的なエネルギーの消耗はどの工程よりも大きい。

サッカーで培った強い精神力


写真上:表面に薄くすり身をぬり化粧をする

ポーカーフェイスと飾らない口調で理想のかまぼこづくりを淡々と語る熊は、小学校から高校までの青春時代をサッカーに捧げたスポーツマン。高校卒業後、鈴廣に入社すると、サッカーへの情熱をそのままかまぼこづくりにシフトした。

「サッカーで培った、周りを見る力や協調性、集中力、忍耐力、そして体力など、すべてがかまぼこづくりに生かせていると思います。」


写真上:上掛けを終えたかまぼこの扇形

 

「上掛け」のプレッシャーを前に涼しい顔をしていられるのは、サッカーでいくつものピンチを乗り越えながら一瞬に勝負をかけてきた経験があるからこそ。負けず嫌いな性格や理想をとことん追求する姿勢もこの影響が大きいに違いない。

現在も社内のサッカー・フットサルの同好会に参加し精力的に活動しており、そんなアクティブな時間も熊の軽やかな仕事ぶりに一役買っている。

 

真っ直ぐな姿勢でチームを率いる

さらに熊は、個性溢れる職人たちを束ねる伝統製造課のリーダーでもある。理想を追求する姿勢は時にストイックが過ぎると映ることもあるが、それでも周囲がついていきたくなるのは、熊のかまぼこづくりへの情熱の強さゆえ。

リーダーとしてストレートな物言いでチームを引っ張るのが熊のスタイルで、それゆえ年上の先輩にも遠慮はない。


「ベテランの職人の中には古い考えが残っている人もいるのですが、時代に合わせて変えるべきことは変えていかないと。」

若手の育成方法にも持論がある。
「昔は先輩の背中を見て学ぶのが主流で、先輩から手取り足取り教えてもらうなんてことはなかったのですが、今はそんな時代じゃない。こちらからの歩み寄りも必要ですよね。」

技術や理論を教えるよりも、まずはかまぼこづくりの楽しさを伝えるのが優先。そのために、若手が包丁を持つ機会を与えたり、スケジューリングやシフトを工夫して、彼らが夢中になれるような環境作りを意識しているのだそう。

歴史ある会社に現代の風を吹き込む頼もしいリーダーが、今後の鈴廣の未来を担う。

Written BY Tomoyo Tsuchiya

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