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かまぼこができるまで④「水晒し」職人 萩原久

鈴廣かまぼこでは国家資格を持つ職人が、日々魚と向き合い、素材の力を感じていただけるかまぼこを作っております。

全13回にわたり、伝統的なかまぼこの作り方をお伝えします。連載の第4回目は水に晒した魚肉の水を絞る工程です。ライターの土屋朋代さんが聞き、職人の原久がこたえます。

*本連載は「鈴廣の職人技」サイトの職人インタビュー(聞き手:土屋朋代)から転載したものです。

ゴッドハンドが叩き出す奇跡の水分値

職人たちに、最も難しい工程はどこかと聞くと、みんなが口を揃えて「脱水」と答える。それほど難易度の高い工程なのだが、そんな「脱水」が一番好きだと言う職人が一人。入社36年のベテラン、萩原久だ。その恐ろしいほどの水分値の正確さから、社内では敬意を込めて「人間水分計」と呼ばれている。

「脱水」は、その名のとおり水晒しした魚肉を、水分を適度に残して、脱水する工程だ。魚の身に残る水分の割合は、かまぼこの弾力やしなやかさに大きく影響するのだが、その誤差はというと、すり身に残る水分量が0.1%違うだけで弾力が変わってしまうというレベル。しかも、魚種や産地、季節や大きさによって魚が蓄えている水分量は異なるため、毎回絞る加減を変えるだけで狙った水分量に調整するのは困難を極める。

そんな果てしなく細かな微調整も、萩原が魚の身をぎゅっと握れば、狙った水分値にピタリ。「あと、0.数%絞ろうか」と言われて困惑したという若手の声も聞こえた。水分計で調整後の魚肉の水分値を毎回計測する際も、ほとんどが狙い通りの値に収まるという、研ぎ澄まされた感覚の持ち主なのだ。

職人の技と科学の相乗効果

写真上:魚の身を袋に入れて、重しで絞る

鈴廣では、最先端の機器を使った実験により職人の技を分析し、おいしいかまぼこの作り方を解明しようしている『魚肉たんぱく研究所』という機関が2007年から設置されている。

「分析が始まった当初は、ちょっとうるさいな、と疎ましく思っていました。これまで感覚でやってきていたため言葉に表せないことが多いところに、数字を突きつけられたら言い返す言葉はないですよね」と萩原は笑う。

「でも続けていくうちに、鋭いところをついてくるんです。正直なところ何のためにやっているのか分からない作業もあったのですが、データで裏付けされるととても興味深かったですね。若い人たちも何のためにやっているのか分かるとおもしろくなって、さらにのめりこんでいくんです。」

 

『魚肉たんぱく研究所』設置後に、日本一のかまぼこを決める品評会で、6年の間に4度の最高賞(農林水産大臣賞)を受賞するという快挙を果たすと、その信頼性は確固たるものに。今では鈴廣のかまぼこづくりに欠かせない要素になっている。

「とはいえ、私には水分計は不要ですけどね」と萩原はいう。もはや科学の上をいく存在だ。

鈴廣のこれからを見守りたい

萩原が鈴廣に入社したのは18歳の頃。その頃と今は違う会社のようだという言葉のとおり、鈴廣の急成長を牽引しさまざまな変化を乗り越えてきた。

「今の若い人たちは入社してすぐに包丁を握るけれど、早すぎると思うんです。まずは別の工程で基本を固めないと、長い目で見ていい職人にはなれないんじゃないか。」

こう言いながら頑固な表情を見せる一方で、プライベートを語るときはあっけらかんとおどけるキュートな一面も。趣味のウォーキングでは一度に10km歩くこともあるそうで、自然とふれあうことで感性を磨きながら、体力作りにも余念がない。
入社当初からリーダーとして何から何まで教えてもらった富永雅夫は、今や先輩後輩の仲を超えた盟友だという。

「私たちが大切に受け継いできた鈴廣の伝統を、次世代がどのように進化させていくのか、とても楽しみです。」

Written BY Tomoyo Tsuchiya

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