かまぼこができるまで⑪「小口切り」職人 小金悦子

鈴廣かまぼこでは国家資格を持つ職人が、日々魚と向き合い、素材の力を感じていただけるかまぼこを作っております。

全13回の連載でお伝えしている伝統的なかまぼこの作り方。第11回目は美しい断面を決める「小口切り」。ライターの土屋朋代さんが聞き、職人 小金悦子が答えます。

*本連載は「鈴廣の職人技」サイトの職人インタビュー(聞き手:土屋朋代)から転載したものです。

リズミカルなカットで見る者を魅了する

「小口切り」は、成形時に板からはみ出したすり身をきれいに切り落とす作業。地味な作業だが、板すれすれに真っ直ぐに切り落とすのは非常に難しく、また、失敗すると製品にならないため、一発できめる集中力が必要な仕事である。数ミリ単位の繊細な感覚は、経験を積み重ねなければ得られない。


この工程を任されているのは、入社24年目となる小金悦子だ。

「プレッシャーがすごいので、最初の頃は手が震えました。でも慣れてくると、スパッと切るのが気持ちいいんですよ。」

小口切りの際は、片側を切り落としたあと、付け包丁の上で板を滑らせ、かまぼこをクルンと回転させて逆サイドをカットする。無駄のない動きを追求し代々受け継がれてきたこの妙技は、通称「板クルン」と呼ばれる。

「実用性のあるアクションなのですが、パフォーマンスとしても華やかですよね。実演のときお客様が喜んでくれるのが嬉しくて、ちょっと多めに回しちゃうときもあります」と笑う小金。

「リズムも大事なので、頭の中で音楽が流れていることもありますよ。」


聞けば、週末となれば車を走らせお気に入りのアーティストのライブを聴きに行くという音楽好き。人見知りを自称する控えめな雰囲気ながら、実はノリノリで小口切りをしているというギャップが何ともたまらない。

職人の世界を生き抜いた強さが今に生きる

小田原からほど近い秦野で生まれ育った小金は、小学校の社会科見学で鈴廣のかまぼこ工場を訪れ、かまぼこづくりにすっかり魅了されたのだそう。

「もの作りが好きだったので、職人に強い憧れがありました。」

しかし当時の職人の世界は想像以上に厳しかったという。

「ストレートな物言いにはじめはかなり傷つき、陰でよく泣いていました。でも今思えば言われてよかったことばかり。また、そもそもが男性社会で、作業内容に男女の差なんてなかったので、力仕事などはかなり大変でしたね。」


写真上:美しい扇形がくっきりと分かる

 

それでも歯をくいしばり、一人前の職人にのぼりつめた小金。伝統製造課ではベテランの域に達しながらも、かまぼこづくりに打ち込む姿勢は常に謙虚だ。

「まだまだ修行の途中です。先輩職人の高い技術や妥協のない仕事ぶりを追いかけてもっと上を目指したいです。」

 

女性初の1級技能士として女性職人を牽引

写真上:鈴廣かまぼこ博物館(小田原市)では職人の手技を身近に見られる

そんな小金は、日本で初めて女性として水産練り製品一級技能士(かまぼこ職人の国家資格。後述、一級技能士)を取得した女性技能士のパイオニア。


この資格は、理論や実技などかまぼこづくりのすべてをマスターした者だけに与えられる。資格に一級技能士と二級技能士があり、一級技能士は国、二級技能士は都道府県から認定される。一級技能士になるには、平均で10年ほどかかるのだそう。

「実は一級技能士の試験は一度落ちてしまったんです。鈴廣にいると多くの職人がパスしているので簡単にとれると思われがちですが、全国で一級技能士の資格をもっているのは約250人。合格率も低く、実はとても狭き門なんですよ。」

苦労して資格を取得したことで、スキルアップはもちろん自信もついた。
職人の世界にも女性が積極的に進出する時代において、小金の踏み出した一歩は大きい。

Written BY Tomoyo Tsuchiya

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