かまぼこができるまで②「魚肉を採る」職人 中野崇

鈴廣かまぼこでは国家資格を持つ職人が、日々魚と向き合い、素材の力を感じていただけるかまぼこを作っております。

全13回の連載でお伝えしている伝統的なかまぼこの作り方。2回目はお魚の身だけをとる「採肉」の工程について、職人の中野崇がこたえます。

*本連載は「鈴廣の職人技」サイトの職人インタビュー(聞き手:土屋朋代)から転載したものです。

魚の状態を瞬時に見極める「採肉の調整師」

写真上:魚の特徴に応じて採肉機の刃を調整する

三枚に卸した魚から身だけをとる工程を採肉という。

日本酒が精米歩合によって味や値段が違うように、かまぼこも魚の採肉度合いにより品質が大きく変わる。魚は皮目付近に脂が多いため、採肉度合いが多すぎると臭みが強く出たり、ふわついた身になってしまう。逆に少なすぎると使える身まで捨てることになってしまいコストがかさむ。中心付近にある65〜70%の良質な身だけを採取するのが理想だが、これも、魚種や魚のサイズ、鮮度など、その時のコンディション次第で変わるというから難しい。

機械をつかって身を採る際に魚に刃を入れる角度や深さ、または皮や骨を取り除く部分の圧力を調整し、採肉度合いをコントロールする必要がある。

こうしてきれいに肉を採っても、かまぼこ1本に使う魚は6〜8匹というから、かまぼこがいかに贅沢な食べ物なのかが分かるだろう。

多すぎても少なすぎてもいけない採肉度合い

入社23年になる中野崇は、この「採肉」の工程を得意とすることから「採肉の調整師」と呼ばれている。この工程の最大のポイントは、魚の色や肉質の具合を頼りに、魚の状態を瞬時に見分けられるかどうかなのだそう。

「5年ほど前から、資源が減ってきたのか、気候の関係か、魚のコンディションが不安定なんです。今は採肉には基本的に機械を使っているのですが、魚のサイズや鮮度にばらつきがあるとそれに合わせて微調整が必要です。1日のうちでも魚種やサイズ、鮮度が違うことがあるので、見分ける力がないとこの工程は務まりません。」

採肉の厚みは昔はすべて目視で判断していたところを、今はものさしを使って目安の数字に近づけることができるそうだが、「それだと時間がかかるし、何よりかっこ悪いですよね」ときっぱり。あくまでも数字は目安であり信じるのは自分の腕。自信があるからこその強気発言だ。

過去と現在、そして未来を結ぶ中堅職人の役割

プライベートでは、中野は地域の消防団の一員で、月に一度の訓練には欠かさず参加するという。

「4人1組のチームで1人にひとつの担当が与えられます。どの工程もひとつ遅れると全体が遅れてしまうというところなど、かまぼこづくりとリンクすることも多いんです。かまぼこづくり同様、自分の与えられた仕事は100%こなしますよ。」

こうして個々のスキルアップやチームワークの大切さを学べるのはもちろん、異業種の人たちとの交流など、消防活動を通して得られるものは多いのだそう。

入社から20年以上たつキャリアの中で、鈴廣のかまぼこづくりの変化について聞いてみると、「教育方針でしょうか。私が入ったばかりの頃は待っているだけでは何も教えてもらえませんでしたが、今の若者は控えめですよね。むしろこちらから教えにいかなければ進まない。ちょっときついことを言うとすぐにやめてしまったりするので、なるべく褒めて伸ばす方向にもっていくようにしています。」

こう苦笑いを浮かべながら、「教え方は変わっても技術は変わりませんけどね」と付け加えるのを忘れない。

古い習慣に固執することなく、昔と今のいいとこ取りともいえる絶妙なバランス感覚で、先人の知識や技術を若手にバトンタッチするという、中堅どころの役割をきっちりと果たしている。

Written BY Tomoyo Tsuchiya

 

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