魚の状態を瞬時に見極める「採肉の調整師」
職人:中野 崇
聞き手:土屋 朋代
多すぎても少なすぎてもいけない採肉度合い
魚の身の状態を確認している
こうしてきれいに肉を採っても、かまぼこ1本に使う魚は6〜8匹というから、かまぼこがいかに贅沢な食べ物なのかが分かるだろう。
入社23年になる中野さんは、この「採肉」の工程を得意とすることから「採肉の調整師」と呼ばれている。この工程の最大のポイントは、魚の色や肉質の具合を頼りに、魚の状態を瞬時に見分けられるかどうかなのだそう。
魚の特徴に応じて採肉機の刃を調整する
採肉機からかまぼこに適した身が出てきている
「それだと時間がかかるし、何よりかっこ悪いですよね」ときっぱり。
あくまでも数字は目安であり信じるのは自分の腕。自信があるからこその強気発言だ。
過去と現在、そして未来を結ぶ中堅職人の役割
「4人1組のチームで1人にひとつの担当が与えられます。どの工程もひとつ遅れると全体が遅れてしまうというところなど、かまぼこづくりとリンクすることも多いんです。かまぼこづくり同様、自分の与えられた仕事は100%こなしますよ。」
こうして個々のスキルアップやチームワークの大切さを学べるのはもちろん、異業種の人たちとの交流など、消防活動を通して得られるものは多いのだそう。
淡々と自分の役割をこなす姿勢が頼もしい中野さんは、鈴廣の職人の中ではちょうど真ん中あたりのキャリアをもつ中堅どころ。
入社からの23年の間に変わったことを聞いてみると、
「教育方針でしょうか。私が入ったばかりの頃は待っているだけでは何も教えてもらえませんでしたが、今の若者は控えめですよね。むしろこちらから教えにいかなければ進まない。ちょっときついことを言うとすぐにやめてしまったりするので、なるべく褒めて伸ばす方向にもっていくようにしています。」
こう苦笑いを浮かべながら、
「教え方は変わっても技術は変わりませんけどね」と付け加えるのを忘れない。
古い習慣に固執することなく、昔と今のいいとこ取りともいえる絶妙なバランス感覚で、先人の知識や技術を若手にバトンタッチするという、中堅どころの役割をきっちりと果たしている。
土屋 朋代
国内外を旅しながら、各地に根付く独自のカルチャーを掘り下げ発信するフリーランスライター。『ことりっぷ(昭文社)』や『地球の歩き方(ダイヤモンド・ビッグ社)』などの旅メディアや、インバウンド向け媒体を中心に編集・執筆活動中。