2021.11.30

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魚肉ペプチドから生まれた「サカナのちからB」が日常生活の一時的な疲労感を軽減 ~日本初の機能性表示取得の根拠となる研究に携わった亀井教授インタビュー~

魚肉ペプチドから生まれた「サカナのちからB」が日常生活の一時的な疲労感を軽減  ~日本初の機能性表示取得の根拠となる研究に携わった亀井教授インタビュー~

  2021年9月、日本で初めて魚肉ペプチド(イソロイシルアルギニン、アルギニルイソロイシンとして)を関与成分とした機能性表示食品(商品名:サカナのちからB)が消費者庁に届出受理されました。これには関与成分の作用や有効性を示す根拠が必要であり、鈴廣かまぼこ株式会社と星薬科大学が共同で研究することによって実現したものです。 当研究に携わった薬学博士の亀井淳三先生(順天堂大学 総合健康科学先端研究機構 特任教授/星薬科大学 名誉教授)に、詳しくお話をうかがいました。 ※「サカナのちからB」は「日常生活の一時的な疲労感を軽減する」旨の表示にて、2022年3月から販売が開始される予定です。

魚肉ペプチドから「抗酸化作用」の高い成分を見つけ出した

――亀井先生が魚肉ペプチドに注目した理由や研究に取り組んだ経緯を教えてください。

2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産として登録されました。それをきっかけに農林水産省が日本食の健康食としての良さを明らかにする研究プロジェクトを立ち上げました。

食品には3つの機能があると言われており、1つは「栄養」、2つ目は「美味しさ」、そして3つ目は「生体調節機能」です。日本食が健康に良いのであれば、その中に生体調節機能をもつ素材・成分が入っていると期待できます。私はリーダーとしてそのプロジェクトの一つに参加し、日本の伝統食に含まれる機能性素材を明らかにしたいと考えました。

ちょうどそのとき、鈴廣かまぼこ株式会社の方から「日本食を代表する練り製品の原料・魚肉たんぱくには色々な面白い作用がある」という話を聞き、当プロジェクトのテーマにぴったりだと思いました。そこで、まずはアンチエイジングや疲労回復効果などと深い関係のある抗酸化作用を指標として、魚肉たんぱくの中にどんな機能性関与成分が入っているのか見つけてみようというところから一連の研究が始まりました。

 

――魚肉ペプチドの機能性関与成分はどのように調べたのですか?

魚肉たんぱくをペプチドなど(魚肉ペプチド)にしたものを、分子量の違いによっていくつかのグループに分類しました。このことを「分画」といいます。魚肉ペプチドからは抗酸化作用が非常に強いいくつかの分画を見つけることができました。

その中で、まずは分子量が低い分画をターゲットとして、そこに何が入っているのかを調べました。細かく分析したところ、イソロイシン(I)とアルギニン(R)というアミノ酸がくっついたジペプチド(=アミノ酸が2つ結合した物質)のようでした。くっつき方の順番で「イソロイシルアルギニン(IR)」か「アルギニルイソロイシン(RI)」の2種類があり得ます。

次に、このジペプチド(IR、RI)が本当に抗酸化作用を持っているのか確認しました。抗酸化作用については一般的によく用いられている電子スピン共鳴(ESR)という方法を用いて計測しました。これにより、IRにもRIにも同じくらいの強さの抗酸化作用があることが確認できました。

つまり、魚肉ペプチドに含まれる抗酸化作用を持つ成分のひとつとして、IRとRIが同定できたということになります。

魚肉ペプチドとそれに含まれるジペプチドによる疲労回復効果を確認

――抗酸化作用のあるジペプチド(IR、RI)が見つかった後はどうしましたか?

酸化は疲労を起こすメカニズムの重要な要素の一つですから、抗酸化作用のある成分を摂取することによって、筋肉の疲労を軽減できるのではないかと考えました。そのアイデアを確かめるために、マウスを用いた動物実験を行いました(Iwasaki, Y et al. Effects of ish eat-derived peptide and dipeptides on dexamethasone-induced fatigue in mice, Jounal of Food and Nurtrition Reserach, 12, 821-826, 2019)。

 

――どのような動物実験を行ったのですか?

筋肉疲労を起こしたマウスに水泳させて、どれくらいの時間を泳ぎ続けることができるかで疲労の程度を確認するという実験です。

副腎皮質ホルモン(ステロイド)を投与すると、筋肉が萎縮して筋肉疲労が起きることが分かっています。それを応用して、マウスにステロイドを投与し、わざと筋肉疲労を起こしたモデルを作りました。そして、マウスの体重の3%に相当するおもりを尻尾につけて、負荷をかけた状態で泳がせました。

そうすると、ステロイドを投与して筋肉疲労を起こしたマウスは、何もしていない正常なマウスよりも泳げる時間が短くなります。そこで筋肉疲労マウスに魚肉ペプチド、もしくは今回見出したジペプチド(IR、RI)を単独、あるいはその両方を混ぜたものを3日間にわたり連続投与したときに、正常なマウスと同じくらい泳げるようになるかどうかを調べたのです。

 

――どのような結果が得られたのでしょうか?

魚肉たんぱくやジペプチド(IR、RI)には疲労回復効果があることが確認できました。

何も食べさせなかった筋肉疲労マウスでは、予想通り、正常なマウスと比較して泳げる時間は短くなりました。しかし、魚肉ペプチドを食べさせると、正常なマウスと同じように泳ぐことができた、すなわち疲労が回復したことが示されました。

また、ジペプチドをそれぞれ単独で投与した場合は水泳持続時間に回復傾向は認められたものの、完全に正常マウスと同じレベルまでには戻りませんでした。そこで2種類のジペプチドを同時に投与して再度評価したところ、正常マウスと同じレベルまで水泳時間が延びました。

つまり、魚肉ペプチドには筋肉疲労を回復させる効果があり、その効果を得るには抗酸化作用が強い成分であるIRとRIのいずれか1つだけではなくて両方摂ることが重要だということです。

 

――面白い結果ですね。ジペプチドの効果についてどう解釈していますか?

単体の成分だけではなくて、さまざまな成分が混ざった形で効果を出すという点は食品ならではだと思っています。

ジペプチド(IR、RI)が体内で分解され、イソロイシンとアルギニンというアミノ酸になるわけですから、IRやRIいずれかの作用だけが強いというのは考えにくいです。IRとRIの同時投与によりアミノ酸の摂取量が単純に増えたという理由なのかもしれません。また、IRとRIがそれぞれの作用点に作用してその相加によって効果が現れるということも考えられますが、その詳細は不明で、今後、明らかにしていこうかなと思っています。

いずれにせよ、サプリメントとして摂る場合も、食品ならではの複合成分で効果を発揮させるというのは理にかなっているのかなと思います。

ジペプチド(IR、RI)による疲労回復効果は人間でも確認された

――動物実験の結果はそのまま人間に当てはめることができません。その後、人間を対象とする臨床試験を行ったのですよね。

はい。ヒトの主観的な疲労感に関してどのような効果があるのかを調べる臨床試験を行いました(Hiroyasu Sakai et al.Effects of Fish Meat—derived Peptides on Fatigue.薬理と治療 48(8); 1393-1399, 2020)。

動物実験では筋肉疲労に対して効果があったのだから、ヒトにも同じように疲労させて効果を調べてもいいのですが、一般の方々は特に激しい運動をした後に飲むわけではないですよね。この成分をサプリメントとして日常生活の中で摂っていただくことを考えると、普通の生活をしている中で感じる疲労感、これが軽減されたら良いのではないかと思いました。

そこで、ごく普通の健康な成人に魚肉たんぱく由来のジペプチド(IR、RI)を含む製品「サカナのちから B」 、もしくはそれに見た目だけ似せて作ったプラセボ(ジペプチドが入っていない製品)を12週間飲んでもらいました。そして、飲む前に日々感じていた疲労感と、飲み終わった後の疲労感に差があるかどうかを評価しました。

 

――主観的な疲労感というのは、どうやって計測したのですか?

医療現場では痛みを評価する際にVAS法を使用しています。痛いと言ってもどのくらい痛いのか分からないので、10 cm のスケールを用意して、左側が全く痛くない、右側が最高に痛いとしたら、今の痛みはどれくらいかを示すというものです。

これを応用し、左側は疲労を感じない、右側は非常に疲れているというスケールを用意し、今の疲れの程度を記入してもらいました。こうすると、人が感じる主観的な疲労感を数値化することができます。

その結果、「サカナのちから B」を飲んだ人では統計学的に有意に疲労感が軽減し、プラセボを摂った人では疲労感の軽減効果は認められませんでした。このように科学的にもしっかりとした方法できちんと結果が出せたと思っています。

魚肉たんぱくから、新たな機能性成分が見出される可能性も

――これまでの一連の研究の振り返りと、今後の展望や期待について教えてください。

これまでの研究で、魚肉ペプチド(「サカナのちから B」)に含まれるジペプチド(IR、RI)には強い抗酸化作用があり、動物実験でもヒトの臨床試験でも、疲労を軽減する効果を持つことを明らかにすることができました。

いま、よく言われている高齢者の「フレイル」の背景には、筋萎縮や筋肉疲労による「サルコペニア」があります。今回の研究で明らかになったように、魚肉ペプチド(「サカナのちから B」)に含まれるジペプチドは筋萎縮がもたらす筋疲労を改善する効果を持っているわけですから、日々の食事やサプリメントとして取り入れていただけると、超高齢社会においても価値を出せるのではないかと考えています。

なお、今回の研究で扱ったのは魚肉ペプチドの分画のうち、分子量が最も小さい分画に含まれる成分だけです。他にも同じくらいの強さの抗酸化作用を持つ高分子の分画がありましたから、この中にも別の機能性成分が入っているのではないかと思います。それらについても研究を行っていけば、魚肉たんぱくの可能性がさらに認められるようになるのではないでしょうか。その結果をかまぼこのような食品にフィードバックすれば面白い製品ができるかなと期待しています。これからの研究の進展を楽しみにしています。

弊社フードサイエンス営業部 本多和紀と亀井先生

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