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魚肉および畜肉の特徴

グチ

 

魚肉タンパク質の説明をする前にまず魚肉と畜肉の違いについて考えてみます。

魚肉、すなわち魚の筋肉にはどのような特徴があるのでしょうか。
図1に水分を除いた成分組成を示しましたが、牛肉や豚肉などの畜肉と比べてみると魚肉は脂質が少なく、タンパク質の純度が高いという特徴を持っています。もちろんすべてに当てはまるわけではなく、ささみのような高タンパク質低脂肪な畜肉もありますし、ブリのように脂がのって美味しいと言われる魚では脂質が半分弱含まれています。

一般的な傾向として、牛肉や鶏肉は半分以上が脂質でタンパク質の純度が低いのに対して、スケトウダラやヒラメなど脂質の比率が少なく、タンパク質の純度が非常に高い魚種が多いことが知られています。つまり同じ量の畜肉と魚肉を食べた場合には魚肉の方がタンパク質の良い効果が得られやすいと言えるのではないでしょうか。

畜肉と魚肉の栄養成分

魚肉タンパク質の種類

魚肉中に占める割合が非常に高い魚肉タンパク質ですが、その特徴によって3つに分類されます(図2)。

一つ目は筋形質タンパク質で、筋細胞間や筋原線維間に存在している球状タンパク質や解糖系酵素などが含まれます。水に溶ける性質を持つため、水溶性タンパク質とも呼ばれ、魚肉タンパク質中の20-50%を占めます。色素タンパク質であり、かまぼこの白さを邪魔するミオグロビンやかまぼこの網目構造を破壊して弾力を弱くするタンパク質分解酵素もこの中に含まれ、かまぼこの製造工程では大量の水で魚肉を洗う水晒しの工程で取り除かれます。

二つ目は筋原線維タンパク質で筋原線維を構成しているミオシンやアクチンが代表的なものです。水には溶けませんが、塩水(イオン強度0.5程度)に溶ける性質を持つことから塩溶性タンパク質とも呼ばれています。かまぼこには最も大切なタンパク質ですね。水晒しで水溶性タンパク質を取り除いた後、塩を入れて擂ることで塩溶性タンパク質であるミオシンが溶け出し、網目構造を構築することで練り製品特有の弾力『足』が生まれます。このタンパク質の性質を把握してコントロールすることがかまぼこ作りには最も重要だと言えます。ちなみにミオシンやミオグロビンのミオ(myo)は『筋肉の』という意味です。知っておくといつかどこかで役に立つかもしれません。

三つ目は水にも塩水にも溶けない筋基質タンパク質で、その特徴から不溶性タンパク質と呼ばれています。主に筋細胞膜や血管の結合組織などを構築するコラーゲンが主要なタンパク質です。この筋基質タンパク質の割合は食感との関わりも深く、一般的に畜肉タンパク質よりも魚肉タンパク質中の含有量の方が少ないことが知られています。そのため、魚肉は畜肉よりも身が柔らかく、ほぐれやすいという特徴を持っています。

食感という意味では畜肉の場合、部位ごとにタンパク質や他成分の組成が変動するため、様々な食感の違いを楽しむことができます。それに加えて魚肉の場合は、季節やエサ、生息域、年齢など成分組成の変動要因が多いため、より多くの味わいを楽しむことができる食材だと言えます。

魚肉中のタンパク質組成

赤身魚と白身魚

赤身魚と白身魚の違いをご存じでしょうか。それは赤い色素タンパク質であるミオグロビンの量の差です。

ミオグロビン含量が多く、魚肉が赤く見えるものを赤身魚、逆にミオグロビンが少なく、魚肉が白く見えるものを白身魚と呼んでおり、ミオグロビン含有量の違いはこのタンパク質の機能に由来しています。ミオグロビンは血液中のヘモグロビンが運んできた酸素を受け取って筋肉中で蓄える役割を担っており、酸素が大量に必要な魚種ほどたくさん持っているのです。代表的な赤身魚として長時間遊泳する回遊魚であるマグロやカツオ、サバなどが挙げられます。

赤身魚の筋肉は人間でいうところの遅筋に相当し、いわゆるマラソンランナータイプの筋肉として知られています。ヒラメやタイなど普段はゆったりと動いているが、エサを捕獲する時や危険を回避する時にはパッと瞬発的に動く魚が白身魚には多く、有酸素運動よりも無酸素運動を得意としています。白身魚の魚肉は人間だと速筋に相当する筋肉で短距離ランナータイプと言えます。

これらの筋肉の種類の違いが食感や味、栄養性の違いにも反映されますので、特徴を知っておくといいかもしれませんね。

消化性

魚肉タンパク質の特徴の一つとして消化性が高いことが知られています。
人工胃液を用いて魚と乳、大豆タンパク質の消化性を比較した実験では、同じ時間が経過した時に乳や大豆タンパク質と比べて魚のタンパク質では、タンパク質分解の進行が速いことが分かりました(図3)。

一般的に魚のタンパク質は哺乳類や植物のタンパク質よりも不安定な構造をしており、消化酵素による分解を受けやすいと考えられています。消化性が高いことは体内への吸収にも影響を及ぼす可能性が高く、実際にタンパク質栄養価の指標である生物価や正味タンパク質利用率は乳タンパク質の一つであるカゼインだとそれぞれ76.2、75.5%であるのに対し、タラでは88.5、87.7%、ブリでは86.1、84.4%と魚のタンパク質の方が高い値を示すことが分かっています。

このような差は消化器官への負担や腹持ちの良し悪しの差となって表れてくると考えられています。一概に消化性が高いから良いというわけではありませんが、様々な食品の特徴を把握して体調や状況によってバランスの良い食事をとることが大切だと言えるのではないでしょうか。

人工胃液によるタンパク質の消化

健康機能性

近年、魚肉タンパク質の健康機能性が次々と明らかにされてきています。

魚食が健康に良いという概念は一般的で、主にIPA(イコサペンタエン酸 EPA:エイコサペンタエン酸との呼ばれる)やDHA(ドコサヘキサエン酸)など高度不飽和脂肪酸の影響と考えられてきました。これは数多くの根拠があり、まぎれもない事実ですが、水分以外の魚肉成分の大半を占める(図4)タンパク質の効果についてはこれまであまり多く調べられてきませんでした。

実際に研究を進めてみると、イワシのタンパク質が血栓を溶かす作用を持っていたり、スケトウダラのタンパク質摂取で筋肉量が増加したりと健康機能性が明らかにされつつあります。さらに、魚肉タンパク質の分解産物であるペプチドの機能性についても多くの研究が進んでおり、今後数々の研究成果が得られることが期待されています。

スケトウダラの栄養成分組成

【参考資料】
鴻巣章二.魚の科学.朝倉書店.
松野信郎ら.日本人摂取蛋白質の生物価.栄養学雑誌 29, 250-254 (1971).
木村郁夫.やっぱり、さかなは健康食だ!~新たな健康機能とは~.独立行政法人 水産総合研究センター 第4回成果発表会(2006)
日本水産株式会社.白身魚タンパク質の最新研究報告(2018)

この記事を書いた人
魚肉たんぱく研究所 所長 博士(農学) 植木暢彦(うえき・のぶひこ)

魚肉たんぱく研究所 所長 博士(農学) 植木暢彦(うえき・のぶひこ)

東京大学大学院農学生命科学研究科 水圏生物科学専攻 博士課程修了
魚貯蔵中の脂質過酸化抑制、マグロの変色メカニズム解明、ペプチドのシグナル伝達経路解明などの研究を経て、魚の基礎研究を続けたいと魚肉たんぱく研究所へ移籍。
現在は、伝統的職人技の原理解明、未利用資源の有効活用、魚肉タンパク質を用いた新規シーズ開発をテーマに研究を行っている。好きなかまぼこの食べ方は、オリーブオイルにネギ。または小田原っ子の丸かじり。

魚肉たんぱく基礎講座

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    魚肉タンパク質はその性質ごとに3つに分類されます。哺乳類や植物のタンパク質よりも消化性が高いことも特徴で、最近では数多くの健康機能性も明らかにされてきています。

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