かまぼこができるまで⑧「成形・引き起こし」職人 緑川健太


鈴廣かまぼこでは国家資格を持つ職人が、日々魚と向き合い、素材の力を感じていただけるかまぼこを作っております。

全13回の連載でお伝えしている伝統的なかまぼこの作り方。今回の第8回目から10回目までは、すり身を板につける成形のお話しです。聞き手はライターの土屋朋代さんで、職人の緑川健太が答えます。

*本連載は「鈴廣の職人技」サイトの職人インタビュー(聞き手:土屋朋代)から転載したものです。

得意技の「2㎜羽二重」でかまぼこの土台を作る

裏ごししたすり身は三段階の作業を経て板の上に形作られていくのだが、その中のはじめの工程が「引き起こし」だ。すり板をよく練りながら、板に生地を何層にも重ねて塗りつけることで土台を作る、口当たりや食感を左右する大事な工程である。

この工程を得意とするのが、水産練り製品製造一級技能士(かまぼこ職人の国家資格。後述、一級技能士)の資格保持者の中では最年少の緑川健太だ。得意技は「2㎜羽二重」。鈴廣のすり身の生地はしっかりしているので、一度にたくさん板につけると気泡が入ってしまいやすい。これを防ぐために幾重にも層を重ねる手法を用いるのだが、緑川の手元を見るとその層の薄さに驚かされる。ミリ単位の薄さのすり身を目にも止まらぬスピードで重ねていく様子はまさに職人技。これを一日に数百本も行うというから相当な体力と集中力が必要だ。

写真上:すり身を板に何層にも重ねてのせる

極薄の層から生まれる絹のようななめらか食感

「押し付けすぎるとふっくらした食感が失われてしまうので、力加減も難しいんです。ちょっとでも気を抜くと、穴ができてしまったり、口当たりの重い箇所ができたりしてしまいます。」


ここまで到達するまでは試行錯誤の繰り返し。早い人は半年くらいでマスターするところを、緑川は2〜3年かかったのだそう。

写真上:引き起こしの工程を終えたかまぼこ

 

「包丁の角度、塗り方、回数……、先輩の手の動きをとにかく観察しました。それを実践して、どこが違うのが分析し、先輩にチェックしてもらって、ダメなところはすぐに修正し、またチェックをお願いして……。この繰り返しです。」

“教わったことはすぐ実践”がモットーの緑川。そうして泥臭くも着実に技術を身につけ、板付けの重要な工程を任されるまでに成長した。

徹底したお客様ファーストの姿勢

写真上:鈴廣かまぼこ博物館のかまぼこづくり体験教室。職人とお客様との交流にも

福島県出身の緑川が鈴廣に入社するきっかけとなったのは、高校3年の修学旅行。この時に鈴廣を訪れ、職人がマイクで解説しながらかまぼこづくりを実演し、そのままお客様に提供している様子を見て衝撃を受けた。

「もともともの作りが好きなので職人の世界に憧れはありましたが、職人は裏で黙々と作るだけというイメージでした。でも、鈴廣には職人自らお客様の反応が見られる環境がある。これって他社ではなかなかないことだと思うんです。」


実際、鈴廣では『かまぼこ・ちくわ手づくり体験教室』が開催されているほか、職人が立つカウンターでかまぼこの食べ比べができる『かまぼこバー』もあり、お客様と職人がふれあえる機会がたくさんある。

「そういう場所でかまぼこの魅力をお客様に直接PRするのが好きなんです。そこで見聞きしたお客様の反応はかまぼこづくりにフィードバックできますしね。」


趣味の旅行もただのプライベートな時間として片付けないところにも、緑川の仕事熱心な性格が表れる。

「旅先でもお客様との話題作りになりそうなネタ探しはいつもしています。小田原や箱根の観光情報に詳しくなっておけば接客にも役立ちますよね。」


どこまでも“お客様ファースト”な姿勢が印象的だ。

「常にお客様まで見据えて一つひとつ丁寧に作る、という考え方は先代の人たちから教わったこと。それをしない限りはお客様が鈴廣を選んでくれることはないと思うんです。」


分業が進み目の前の作業に囚われてしまいがちな現代で、“お客様に喜んでもらう”という原点を忘れずにかまぼこづくりに取り組む。緑川はお客様と職人の架け橋という重要な役割を担っている。

Written BY Tomoyo Tsuchiya

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