鈴廣営業マンが行く! 名店の「蕎麦前」をたずねて vol.8 利久庵

江戸から続く、おそば屋さんの粋なたのしみ方「蕎麦前(そばまえ)」。おそばが出てくる前に、日本酒とともにおつまみをいただく文化です。このシリーズでは、鈴廣営業マンが各エリアのおそば屋さんを訪問。蕎麦前の良さを知る店主のみなさんにインタビューしながら、名店の逸品に触れていきます。今回は、横浜・関内にあるおそば屋さん「利久庵」(横浜市中区)をご紹介。戦後、横浜の興隆とともにお店を発展させてきた、会長の出川修治さんにお話を伺いました。

<店舗紹介>手間暇かけた、我慢の商売。お客様に親切に、お料理も親切に

「江戸城築城と城下町の区画割で全国から職人・町人が集結した頃から、平民の軽食として重宝されていたのがそば屋でした。明暦の大火では、天守閣をはじめ江戸のほとんどが灰燼(かいじん)と化してしまいましたが、新しい江戸の創都計画のために人が集まりました。その食を賄ったのが、爆発的に増えた『慳貪(けんどん)そば』だったんです」

そばの深い歴史を語る出川さん。2022年に創業72年を迎えた利久庵は、出川さんのご親族が始められました。関内の街は戦後、進駐軍に接収されていましたが、1959( 昭和34)年に横浜市庁舎が戻り、利久庵も現在地に。 当時、雑草が生い茂っていた一帯は「関内牧場」と呼ばれていました。 飲食店は少なく、お客さまは市の職員が中心で、出前が盛大だったそうです。

「初代が病気を患ったことから、1967(昭和42)年、海苔屋の三男だった私が引き継ぐことになりました。お二人の調理師のご指導で、一からそば屋の修行を開始。朝早くから深夜まで、こまねずみのようによく働きました。とくに 自転車の出前は辛かった。ざるそば28枚、なべ焼き13杯が記録です」

そば造りで大切な順番は、江戸時代から言い伝えられてきた「一鉢、二延し、三包丁」。利久庵でも、木鉢作業を最も重要視しています。「木鉢三年、延し三月、包丁三日」とも言われ、習得が難しい作業でもあります。お店では、二八そばを7kg、順次水廻しして1時間かけて揉み込んでいるんだとか。

「大切なのは、2尺3寸(約70cm)の木鉢いっぱいに使う両手の作業。舟を漕ぐ櫓(ろ)の動きを参考にしているのが利久庵流です。水廻しの最初はパウダー状、次に胡麻、米、小豆、大豆、羊の糞状にし、ベロだしで左右4か所の丸をくくり、それを2個の団子にして50回両手で揉み、さらに合わせて100回。乙女の肌のようにしっとりさせ、両手に体重をかけ麺状にし、さらに麺棒で1cm位の厚さにして、ローラー機械で切り落としています。

こうした手間ひまを惜しまないのはもちろん、提供する料理それぞれに深い美意識を感じられるのが利久庵の特徴。出川さんが30代のころ、お茶会で出会った茶懐石に感銘を受け、裏千家の料理番「辻留」の料理長が主宰する勉強会に20年通い、教えを受けました。それゆえ利久庵の料理は、茶懐石を基調としながら時代感覚に合わせてアレンジしているんだそうです。

「茶懐石には、『粋』につながる『侘び』と『寂び』の精神が宿っています。日本人は古くから、自然の力を借りて素朴なものを愛でてきました。旬の素材を大事にして、自然で飾らないことを大切にする。これがそば屋の料理であるべきだと思っています」

<板わさと日本酒> 鈴廣のかまぼこと、香り高い「菊正宗樽酒 辛口」を冷酒で

ここからは、出川さんおすすめの「蕎麦前」を3品ご紹介します。「板わさ」は、もちろん鈴廣のかまぼこ。爽やかな風味の伊豆・天城産わさび漬けと、やさしい甘さの厚焼きたまごがアクセントです。

蕎麦前に合わせる日本酒は「菊正宗 樽酒 辛口」を冷酒で。吉野杉の酒樽に貯蔵した純米酒で、芳醇な旨みが特徴。杉の華やかな香りときりりとした喉越しが、料理の味わいをぐっと引き立てます。

<蕎麦前>じっくり煮込む自家製「鰊の旨煮」と、ふっくらジューシーな「やきとり」

続いては、「鰊(にしん)と焼きなすの旨煮」。鰊は自家製で、水は使わず、酒と黒砂糖・醤油を使って蒸しあげ、丸1週間かけて仕込みます。鰊が持つ旨みとほどよい甘み、柔らかな食感が織りなす絶妙な味わいに、お酒がついつい進んでしまいます。

もう一皿は、不動の定番「やきとり」を選んでいただきました。利久庵のやきとりは、串に刺さない「くわ焼き」。甘辛いタレがふっくらジューシーな鶏肉と見事にマッチした、クセになりそうなおいしさです。

<おそば>締めは、豊かな風味とつるっとした喉越しが楽しめる「ざる」

蕎麦前を満喫した後は、締めのおそば。お酒の後にさっぱりと食べられる「ざる」をチョイスしていただきました。使用しているのは、豊かな風味が特徴の十勝鹿追蕎麦。少し細めのおそばは適度なコシがあり、つるっとした喉越しを楽しめます。シンプルで深い味わいの、飽きのこないおそばです。

お客さまそれぞれの時間の使い方を大切にする利久庵では、昼休憩を設けず、午前11時から午後8時30分まで通しで営業しています。客層の幅は広く、とくに女性のお客さまが多いんだとか。

「ターゲットは『ナイスミセス』。女性はファッションと旅行、そして食に対して敏感です。当店の懐石料理コースも、女性に支持されています。昔から足を運び続けてくださるお客さまも多く、人とのふれあいの大切さも感じています。
何でもセントラルキッチンで製造するチェーン店とは異なり、われわれは自分の目と口、手で料理をつくり出していかねばなりません」

つねに独創性を追求していきたいと語る出川さん。生まれ育った地元・横浜に対しても熱い思いを抱いています。

「開国以来、横浜はつねに文化の発信地でした。戦争で焼け野原になったけれど、徐々に事業所も増えて、憧れの街になっていった。いまは再開発が進み、大型商業施設ばかりが増えていますが、どうしても『人間不在』を感じてしまう。世界各国から人が集い、文化が花開く街を、百年の計でつくっていってほしいと思います」

蕎麦前をじっくり味わいながら過ごすひととき―。料理はもちろん、ゆっくり流れる時間やお店ごとに違う空間なども、五感を使って贅沢に楽しめます。
蕎麦前は、ふだんは長居しないおそば屋さんでの時間をより豊かにしてくれる素敵な文化。いつでも、だれでも、手軽に体験できます。このインタビューを読んで少しでも興味を持ったなら、ぜひお店に足をお運びください。

■今回いただいたメニュー ※価格は税込み
板わさ(小田原・天城の山葵漬け)880円
冷酒 菊正宗樽酒 辛口 1合770円
やきとり(たれ)770円
鰊と焼きなすの旨煮(自家製)858円
ざる 902円

■店舗情報
利久庵
〒231-0016 横浜市中区真砂町2-17(JR・横浜市営地下鉄 関内駅下車 徒歩3分)
TEL 045-641-3035
営業時間 11:00~20:30
※新型コロナウイルス感染拡大状況により変更の場合あり
定休日 日曜日

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