美しい扇型を「一回できめる名人」
職人:須藤 隆太
聞き手:土屋 朋代
素早く盛って形と重さをぴたりと揃える
板から朝日が昇るように丸く広がる扇型は、小田原かまぼこの最大の特徴。これを形作るのが「中掛け」だ。次工程の「上掛け」で最終の形に仕上げるが、中掛けの形状が整っていなければ、理想の最終形にすることは不可能なため、成型の肝となる工程といえるだろう。形を整えることに加え、火の通りが均一に入るよう決められた重量に揃える必要があるのだが、これを一回できめなければならない難しさがある。すり身は時間の経過と共に質が変化していくため、1本に時間をかけて何度も手直しすることが許されないのだ。
この責任ある工程を若くして任され、美しい扇型を「一回できめる名人」として職人たちの間でも敬われているのが、入社14年目の須藤さんだ。
中掛けに携わるようになって現在7〜8年目というが、はじめは、中掛けをしたかまぼこを次工程の先輩職人に渡しても無言で返されたのだとか。
「10本作ったら9本戻ってくるペースでしたね。何度もくじけそうになりました。」
苦笑しながら当時を振り返る須藤さんだが、そこから毎日試行錯誤を重ね少しずつ腕を磨き、ようやく形になってきたと感じたのは、始めてからなんと3〜4年目というから、いかに習得が難しいかが分かるだろう。
「今では重さも大体感覚で分かりますよ。ひとつのかまぼこの重さは板込みで320gと決まっているのですが、許容誤差は1g程度。1回でぴたっときまると気持ちいいですよね。」
須藤さんの流れるような手さばきは見ているだけでため息もの。無駄のない動きから機械のような正確さで美しい形のかまぼこが形作られていく。
高い意識をもって理想の形を追求する
一発で形と重さをきめる
「はじめは寮生活なのですが、年齢が近い職人が多いので助け合って生活していました。同僚との距離も近くなるのでみんな仲はいいですね。切磋琢磨するライバルでもあり、プライベートで遊ぶ友達でもあり、和気あいあいと楽しく仕事ができています。」
魚釣りに加え、小・中・高校と没頭し現在も会社のチームで活動しているサッカー、さらには将棋も嗜むという多趣味な須藤さん。
「すべてかまぼこづくりにいい影響があるんですよ。魚釣りは釣ってさばくまで自分でするので魚の知識が深まりますし、サッカーはチームプレイのノウハウを学んだりや体力作りに役立ちます。そして将棋では集中力と先を読む力が養われていると思います。」
近所にあるなじみの飲食店に自分の将棋盤と駒を置かせてもらい、店の常連と将棋を打つのが日常なのだとか。
「“仕事”と“作業”の違いを常に意識するようにしています。仕事とは頭を使って能動的にするもの、作業は頭を使わずに受動的にただ体を動かすこと。これは昔先輩職人から投げかけられた言葉です。レベルの高い“仕事”を目指したいですよね。」
常に高い意識でかまぼこづくりに取り組む須藤さんが、155年あまり受け継がれてきた鈴廣かまぼこの理想の形を追い求め続けている。
土屋 朋代
国内外を旅しながら、各地に根付く独自のカルチャーを掘り下げ発信するフリーランスライター。『ことりっぷ(昭文社)』や『地球の歩き方(ダイヤモンド・ビッグ社)』などの旅メディアや、インバウンド向け媒体を中心に編集・執筆活動中。