HOME ヒト 寄木細工に魅せられ小田原へ。新たなカタチで歴史をつなぐ職人。

寄木細工に魅せられ小田原へ。新たなカタチで歴史をつなぐ職人。

「OTA MOKKO」代表 太田 憲さんに聴く

2022.08.24
寄木細工に魅せられ小田原へ。新たなカタチで歴史をつなぐ職人。

2012年に創業して以来、寄木細工の新たな可能性を模索し、つねに業界に新たな息吹をもたらしてきた「OTA MOKKO」。その代表である太田さんとは果たしてどのようなヒトなのか。

いまに至るまでの道のりとは?

「寄木をやりたくて23歳の時に家族と共に小田原へ移住したんです」

「22歳までは店舗の内装をつくる仕事をしていたんです。でも、内装業っていろんな業種の職人による分業制で、実際に自分が携われるのはごく一部分。そこに納得がいかなくなって。一から十まで全て自分で行う木工の仕事をやりたくなったのが、この世界に入るきっかけでした。

木工の技術を学ぶために職業訓練校に通い、出逢ったのが寄木細工でした。それまで寄木細工について知らなかったのですが、調べれば調べるほど、その歴史とそこでしか作られていない希少性、そして何よりも木材の魅力を最大限に生かした美しさに魅入されてしまって。

職業訓練校の先生に寄木細工の親方を紹介してもらって、すぐに弟子入りさせてもらったんです。

それから、そのタイミングで妻にも職業訓練校に通ってもらうことにしました。妻子とともに小田原に移住して独立することを見越しのことなのですが、今思えば良い判断だったなと。そこから8年修行して、2012年に『OTA MOKKO』を立ち上げ、今に至ります。」

客観的に見て、自身はどんなヒト?

「難しい問いです。ただ、『自分に正直でいること』
それをまっとうできる人間ではあるかなと」

「型にハマるのがイヤというか、誰が何と言おうと自分の納得のいくことをしていたい人間だと思います。だから、稀に周囲の人から『こんなものをつくってみては?』という提案をいただくのですが、その理由に自分が納得できなかった場合、作れないんですよね。決して『作らない』わけではないんです。

シンプルに全身全霊でモノづくりに向きあいたいからこそ、自分に嘘をつきたくないというか。誰かの中にアイデアがあっても、自分の中にそれがなければいけないんです。

というと、気難しい性格のように聞こえるかもしれないですが、一方でそんな性格だと自分でわかっているからこそ、日々のインプットは欠かさないようにしています。

なんというか、自分には厳しく、知識には貪欲で誰かのためにモノづくりをしていたいというか……。言葉にするのは難しいですね。」

寄木職人として最も大事にしていること

「まだ見ぬ『誰か』が大切にしてくれる『何か』を精一杯つくる。
それが職人として最も大事にしていることです。」

「はじめて自分で何かをつくった記憶って、小学生の頃に母のためにつくった、隙間に落ちたモノをとるための棒なんです。ほんと、自作したというには大げさな単なる『棒』なんですけどね。

ただ、その時に母が喜んでくれた表情を今でも鮮明に覚えていまして。いま思えば、あの体験がモノづくりのモチベーションの原点なのかと。

あれから数十年の時が経っていますが、いま改めて大事にしていることを言葉にするならば、あの時と同じように、自分がつくったモノが、誰かにとって大切なモノになって欲しい。そう思ってもらえるようなモノをつくり続けるということですかね。

なんだろ、僕のつくったものを『道具』として日々使ってもらうのも嬉しいし、ただ部屋の中においてあるだけでも嬉しい。どんなカタチであれ、誰かの心のよりどころとして在ってほしいということなんです。

僕のモノづくりって、世の中に求められているものを作るというよりも、僕の中にあるモノを、存在するかもわからない誰かのために、ある意味盲目的に一生懸命つくるというスタイルなんです。非効率といえば非効率なのかもしれない。でも、それでも良い。それが僕だから。」

これからの展望

「『クラフト』であり『アート』でもある。
そんなものづくりに挑戦していきたいですね。」

「もともと寄木細工の歴史や伝統に惹かれてこの地にきた僕ではありますが、自分で寄木細工をつくるようになってから、その可能性の奥深さに今でも魅了されているんです。

要は寄木細工って、今となってはひとつの技法でしかなくて、その技法をもとにどんなモノをつくるのかは各職人に委ねられているといっても過言ではないんです。

この地で代々、寄木細工を受け継いできた諸先輩方がそういった自由な風土をつくってくれていると言った方が正確かもしれないですが。

だから、というわけではないのですが、せっかくであれば外からきた自分にしかできないことをやりたいなと。そして、それをやることで寄木細工の可能性をより広めていくことが僕を受け入れてくれたこの土地に対するお礼なのかなと。」

ヒトに伝えたい小田原の魅力

「僕自身が移住してきて良かったと心の底から思えること。
それこそがヒトに伝えるべきこの街の魅力なんだと思います」

職人としての僕から見た小田原の魅力は、県外からきた僕に修行をさせてくれた上に、独立してからも面倒を見てくれるというオープンな空気感。

一家の主としての僕から見た際の魅力は、とにかく住みやすい環境と豊富な自然、そして美味しい魚、野菜。そして、ひとりの人間としての僕にとってはそれらを全部ひっくるめた街の温かさ。それがすべてです。」

まとめ

自身は「つくる」プロであり、「話す」プロではないという前置きがあった上で、取材を進める我々に対し、ひとつひとつの質問をゆっくり咀嚼しながら、じっくり言葉を選び応えてくれた太田さん。

話すのは得意ではないけれど、きっと誰かと話すことが好きなのだろう。そんな様子が伝わる表情や反応が印象的だった。どことなく作品にそういったやさしさが感じられるのは、彼の人間性がストレートに反映されているからに違いない。