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地元の酒粕やビール粕、オリーブ粕で健やかに育つ「相州牛・相州和牛」

長崎牧場

2025.12.10
地元の酒粕やビール粕、オリーブ粕で健やかに育つ「相州牛・相州和牛」

南足柄の市内から車で10分ほど。細い道を抜けると山の中に大きな牛舎が現れる。市街地が近いとは思えないほど、のどかで静か。青々と草木がしげる放牧場に牛の声と鳥のさえずりだけが山にこだまする、桃源郷のような世界が広がっていた。

そんな場所で親子3代にわたり 畜産を営む長崎牧場は、神奈川県で唯一、牛の放牧に取り組み、南足柄産ブランド牛「相州牛・相州和牛」を育てる牧場だ。

神奈川県唯一の放牧。のびのび暮らせる環境づくりを。

長崎牧場は、昭和43年(1968年)に先先代が牧場を開いたことにルーツをもつ。出荷頭数にこだわらず、牛の一頭一頭のことを考えて愛情たっぷり飼育する姿勢が印象的だ。

「牛がストレスなく健康であることが、おいしさの基本です。そのための環境づくりには手を抜きません。昭和50年代に、祖父の時代につくった牧場の近くに道路ができた時は、騒音が牛のストレスになるのを危惧して山の中へ牧場ごと引っ越しました」

こう語ってくれるのは、現代表の長崎光次さん。
このほかにも、牛舎に入れる頭数を制限したり、静かで広大な放牧場に牛たちを放ったり、たとえ非効率であろうと徹底した牛ファーストを貫いている。

「体の基礎ができあがる生育期に放牧することで、病気に強い牛になりますし、思いきり体を動かしてたっぷり牧草を食べることで体は健康的に大きくなります。牧場では午後はたい肥づくりの機械も止めて、なるべく静かに、牛たちがリラックスして休めるようにしているんですよ」

長崎牧場の牛たちは、穏やかな環境でのびのびと暮らしているからか警戒心もなく、訪れた私たちを見ると人懐こく近づいてくる様子が微笑ましい。

長崎牧場でだけ育てられる希少なブランド牛

きめの細かい肉質、とろけるような甘さの上質な脂、極上のうまみと風味がある「相州牛」。そして、出荷頭数が月に2頭ほどのため“幻”と称される「相州和牛」。交雑種と黒毛和種をそれぞれ「相州牛」「相州和牛」としている。いずれも食肉市場の品評で多数の賞を受賞し、神奈川県が認定する「かながわブランド」や「南足柄ブランド」にも登録されている、正真正銘の南足柄産ブランド牛だ。近年人気が高まっているこれらの希少な牛を育てているのは、実はこの長崎牧場だけ。

「同じ品種でも、どこでどのように、どんなものを食べて育つのかで、肉質が全く違うものになるんです。地域ブランド牛が日本にはたくさんありますが、牧場がいくつもあると味にばらつきが出てしまう。だから、自分が責任をもって育て上げた牛だけの、長崎牧場だけのブランドを作りたかったんですよね。」

自家製飼料づくりは釜で米と麦を炊くところから

長崎さんが飼育環境とあわせて力を入れているのが、牛たちが食べる飼料づくりだ。
「毎朝、牛舎の手前にある大きな釜に薪をくべ、米と麦を炊いたものを牛たちにあげています。かなり手間がかかりますが、水分がある餌は食べやすいし、消化にもいいんです。そのほか、ビール粕や酒粕、おから、オリーブのかすなど13種類の素材をブレンドし、一頭一頭の月齢や体調に合わせて、牧草と一緒に与えています。どの時期にどのような配合の飼料を与えたらいいのかを確立するまで何年もかかりましたね」

米のオレイン酸は口溶けのよい融点の低い脂をつくる、ビール粕は繊維と乳酸菌が多く牛の胃腸の調子を整える、など、それぞれの素材の特徴や効能と実際の牛の反応を見ながら研究を重ねたそう。
牧場に足を踏み入れた時、牧場らしからぬ甘酸っぱい発酵の香りを感じたのはこのためだった。米と麦を釜で炊き、ビール粕や酒粕などの発酵食材も混ぜてつくった栄養満点の自家製飼料の香りなのだ。

もうひとつ、長崎牧場を語るうえで欠かせないのが“水”だ。長崎牧場の牛たちは、雄大な箱根丹沢山麓のおいしい水源から組み上げた地下水を飲んでいる。
「人間の成人の身体の約60%が水分とされていますが、成熟した牛もほぼ同等で約66%が水分です。成牛の1日に飲む水の量は200ℓともいわれます。地下100mから汲み上げた豊かで上質な地下水を毎日たくさん飲んでいる牛は肉質も違いますよね」

また、一般的には肥育も発達段階に応じていくつかの牧場が分業して行うことが多いが、長崎さんはしない。ストレスの原因になる移動も減らせるうえ、与える食べ物もすべて管理できるからだ。「相州牛・相州和牛」は長崎牧場の牛だけのブランド名。長崎さんの細かな管理が行き届くことで確実に品質を保証することができるのだ。

さらっとした脂と甘みの強い赤身の絶妙なバランス

長崎さんにとって理想の肉質とは何なのか。

「いろいろな好みがあると思いますが、僕が求めているのは、脂がしっとりしていて融点が低いもの。融点が高いものは食べていると唇にリップクリームのようにギトギトな脂が残りますよね。それはあまりよくないかな、と。さらに赤身は甘みと旨みが強いといいですね。脂はさらっとしてるのに甘い、というのが理想でしょうか」

「いい肉=A5」と思われがちだが、実はそうともかぎらない。アルファベットの部分は「その牛からどのくらい商品となる肉が取れるのか」を評価したいわば生産性の指標。一方、数字の部分は、肉の色沢や脂のサシの具合などを目視で判断したもので、脂が多いほど5に近づくだけ。つまりいずれも味の評価ではないのだ。

「個人的に好きなのは赤身の旨みと脂の甘みや香りを両方楽しめる、1~5の指標でいう3くらい、部位はみすじが好きですね。うちの牛肉は味がしっかりしているので、その旨みを生かした調理法で召し上がってもらいたいですね。レアステーキに焼いて、味付けは塩コショウやわさび醤油だけで十分。シンプルに食べる方が肉のおいしさをダイレクトに楽しめると思います」

そんな長崎さんが丹精込めて育てた牛肉を買うなら、小田原駅東口にある「NAKAGAWA298」へ。小田原で明治から続く食肉卸「中川食肉」の歴史を受け継ぐ老舗精肉店で、店内には全国から厳選された精肉がずらり。希少な「相州牛・相州和牛」も豊富に取り扱っている。「NAKAGAWA298」は焼肉店「老舗精肉卸問屋直営 和牛屋」も手がけており「相州牛・相州和牛」もメニューに並ぶので、小田原の地でブランド牛を味わいたいならぜひ訪れてみよう。また、長崎牧場直営の精肉店「長崎畜産」でも「相州牛」が購入可能。直営ならではの新鮮な肉が手に入るが、注文は予め電話で問い合わせを。

長崎畜産

〒250-0111
神奈川県南足柄市竹松913
電話:0465-74-0459

https://www.soshugyu.com/about/

NAKAGAWA298
〒250-0011
神奈川県小田原市栄町2丁目8-43
電話:0465-22-2040
営業時間:10:00〜18:00
定休日:日曜

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