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障がいがある作者と社会との接点をつくるオーダーメイドの名刺

「アール・ド・ヴィーブル」 の つながるカード

2023.07.12
障がいがある作者と社会との接点をつくるオーダーメイドの名刺

ビジネスマンにとっては欠かせないツールである名刺。ここで紹介する「つながるカード」は、小田原にある障がいがある方の支援施設「アール・ド・ヴィーヴル」で創作されたアートをモチーフとした特別な名刺である。「障がい」と「アート」、二つのキーワードが繋がるオーダーメイドの名刺の魅力とは?

個性を尊重する想いからはじまったつながるカード

ビジネスにおける名刺は相手に初めて会う時に渡すことが多く、「自分がどのような人か」を伝えるツールである。しかしながら、名刺自体に「個性」を求めたデザインは少ない。
所属する企業や団体が決めたフォーマットにそった当たり障りのないデザインがほとんどだ。

つながるカードはそうではない。名刺に圧倒的な「個性」が光る。それぞれの名刺には独創的な絵が描かれているが、それはすべて障がいのある方々が描いている。
名刺のデザインは毎年20種類以上増えており、顧客は自分にしっくりくる作品を選ぶことができる。

そんな名刺をこの世に送り出したのは、小田原で障がいがある方の支援を行う「アール・ド・ヴィーヴル」。理事長である萩原 美由紀さんが施設の仕事を通じて、様々な企業や地方公共団体に勤める方々と名刺交換をする中で、インパクトの薄いデザインの名刺に疑問を抱いたことがはじまりだった。

「個人のデータを伝えるモノなのに、正直同じようなデザインの名刺ばかりだから、どなただったのか覚えにくいと感じてしまって……。私たちの施設にいらっしゃる利用者たちのアートはすごく個性的だから、これを使ってインパクトがある名刺ができないかって考えたんです」と、萩原さんは語る。

つながるカードに使われるアートは、「アール・ド・ヴィーヴル」にて創作活動を行う障がいのある方々が自由に描いている。絵のテーマや作風などに決まりはなく、名刺ひとつひとつのデザインテイストが実にユニークで多様である。社会の常識に捉われることのない作者の感性を映しだす名刺は、想像力豊かな表現が人気を博している。

コミュニケーションに華を添える個性を伝えるツール

つながるカードは誰が見てもインパクトの強いデザインであることが最大の特徴だ。
「障がいがある方が描いたデザイン」ということは、あえて名刺を見ただけではわからないようになっている。名刺には、アール・ド・ヴィーヴルの施設名や作者の名前も一切記入されていない。しかし、誰が見てもインパクトの強いデザインであることに変わりはない。

そこに、アール・ド・ヴィーヴルが支援の手段としてアートを採用する本質が見える。アートを鑑賞し、そこから何かしらの想像力を膨らませる行動に作者の障がいの有無は関係ない。つまり、障がいのある方がアートを通じて自己表現をした結果、個性豊かな名刺が生まれたというわけだ。

つながるカードは、小田原を中心に話題を集め、昨年ついにアメリカ在住の方からのオーダーが入ったという。それは、アール・ド・ヴィーヴルのアート作品が海を渡って評価されたということ。また最近、小田原ではつながるカードコレクターも現れ、カードの交換を楽しむ様子も頻繁にみられるのだとか。

アートが障がいへの理解を社会に広める

アール・ド・ヴィーヴルの活動は、アートを介して障がいのある利用者と社会の接点をつくり、障がいを理解してもらえる社会を作りたいという思いが根底にある。

つながるカードが果たす役割は、「名刺の持ち主が覚えてもらいやすい」ことだけにとどまらない。
「珍しい名刺ですね」「どなたかが描いた絵なんですか?」といった、会話が初対面の人同士に生まれ、そこからアール・ド・ヴィーヴルの活動や障がいのある方々の作品にも目が向けられる。社会と障がいがある方とをつなぐ一翼を担っているのだ。

アートの特性を活かした名刺は、ユーザーのビジネス上のデータを伝える名刺としての役割だけでなく、その狙い通り作者や施設の活動の広告に繋がっている。そして、そのアートのセンスが琴線に触れたヒトは障害を持つ方の才能に気づくことになるのだ。

名刺からアール・ド・ヴィーヴルを知り、施設が運営するカフェに訪れる人も多いと言う。カフェでは直接、障がいがある方と出会うことになるため、障がいを一層深く理解してもらうチャンスとなる。

創作活動に没頭できる自然豊かな環境

小田原は豊かな自然のなかで落ち着いて作品づくりと向き合える環境が、創作活動に向いているのだと萩原さんはいう。

「作品を生み出すためには、私たちの施設の利用者が自由に楽しく過ごすことで感性を育てたり、リラックスすることもすごく大事なんです。

どうしても気分がのらない時に絵を描いても、良い作品って生まれにくいんですよ。それは障がいのないクリエイターの方もきっと同じですよね。そんな時は散歩したり、外で遊んだりするのですが、自然豊かな環境はそう意味で恵まれています」。

また、ヒトとヒトの付き合いが深い街だけに、近隣の方々が活動を気にかけてくれているそうだ。作品を見に来たひとたちは、ひとつひとつの個性豊かなアートに感銘を受け、作者は評価されることで自己肯定感を高めることができる。

アートが架け橋となり、障がいがあるかないか関係なく、人と人との接点が生まれ、理解が広がるプロセスが成り立ちやすいのもこの街の温かい人間関係が影響しているのかもしれない。

つながるカードは直接施設でオーダーするか、ネットでオーダー可能。名刺づくりを通じて、自然豊かな環境で磨き上げられた、ひとりひとりの感性から生まれるアートに触れてみるのはいかがだろうか。

認定NPO法人アール・ド・ヴィーヴル

〒250-0055 
神奈川県小田原市久野403-17
電話:0465-25-4534

http://artdevivre-odawara.jp/