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無機質なものに命を吹き込む職人技

小田原サンプル

2025.08.01
無機質なものに命を吹き込む職人技

「小田原サンプル」は、神奈川県西エリアで唯一の食品サンプル専門店。小田原市役所から少し足を延ばした先にある久野エリアに、工房兼ショップを構えている。

工房にお邪魔させてもらうと、本物と見間違うほどリアルな食品サンプルがずらり。本物ではないと分かっていても、手にするとその食品の水分や油分などの質感、温度を感じるだけでなく、匂いすら漂ってくる気がして、脳が混乱してしまう。

食品サンプル職人がオーダーメイドで一品一品忠実に再現

驚くことに、これらの食品サンプルはすべて、職人たちの手作業によるものだという。多種多様な食品サンプルを前にテンションが上がる取材班に、代表の本多正典さんが、製作の裏側を丁寧に説明してくれた。

「食品サンプルは、まず型づくりからスタートします。お客様から提供された本物の商品を使って、シリコン樹脂で型を作成していきます」

この型は、使い回しは一切しない。ひとつの依頼に対して必ずすべて新たに型をつくるのだそう。

「例えば、刺身一つとっても、店や職人さんによって切り方って違いますよね。形や厚みなどみなさんこだわっているところだと思うので、そこは忠実に再現するよう一つひとつ新しい型をつくっています」

さらに、エビが2尾以上並ぶ場合も1尾ずつ型をとるという手の込みよう。
「自然のエビに、まったく同じ形の個体なんていませんから、同じものを並べるとどうしてもリアリティに欠けますよね。よく見ないと誰も気付かないと思いますが、どこか違和感を感じるはずです」

見た目だけでなく温度感も演出する色調整の奥深さ

そうしてできた型に「塩化ビニル樹脂」という、熱を加えると白から透明に変化して固まる液体を流し込み、約160℃の窯で焼き上げる。
塩化ビニル樹脂の色の配合もプロの技。もとが白い液体なので、焼き上がりをイメージしながら色の分量を調整する。100分の1g単位で色を配合し、本物そっくりの色に近づけていくには繊細な感性と経験が不可欠だ。納得のいく色ができるまで、時に1日かけても完成しないことがあるのだとか。

「かまぼこもただの白に見えますが、白一種類ではありません。白に、少しだけアンバー系と茶色系、オレンジ系を加えて、さらにほんの少しブラックも入っていますね」
こう言いながら見せてくれたデータブックには、色の配合レシピがぎっしり。
「シンプルなものは特に難しいですね。そう、かまぼこは結構難易度が高いんです(笑)。白色だとごまかしがききませんから。塩化ビニル樹脂という無機質な素材に、色を加えるだけで温かみやひんやりとした質感を出すのが、いちばん苦労するポイントです。逆に、後からいろいろと着色できたり、見た目が複雑なものなどは、意外と逃げ道があるんですよ」

柔軟な発想と試行錯誤により生み出されるリアリティ

焼き上がって形成されたら、エアブラシや筆、スポンジなどを使い、細かな色・柄・艶・照りなどを表現していく。シラスや桜エビ、イクラなども、1尾1尾手作業で仕上げるというから気の遠くなる作業だ。また、干物など複雑な色味の食材は、微妙に異なる色を何層にも重ねることで深みを演出。センスが問われる工程だ。

「魚や肉、野菜もですが、刻々と色が変わるものは特に注意が必要です。例えば、魚は釣ったばかりと時間が経った時の色は違いますよね。なので、その色の変化を写真に撮るなり覚えておいて、どのタイミングの状態を再現したいのかをお客様とよく話し合いながら決めています」

さまざまな種類の魚の食品サンプルを出してもらうと、今にも動き出しそうなみずみずしさと、生き生きとした瞳に見惚れてしまう。そんな様子を見て「これらの魚の目玉は後から入れているんですよ」と、本多さん。「やっぱり生き物は目が命ですからね。型でそのままつくってしまうとリアル感が出ないので工夫しています。目玉は柔らかくて型がとれないため、黒目は粘土、透明の部分は塩化ビニル樹脂で造形の目玉をつくって本体にはめ込んでいます」

聞けば、これらの技法はすべて自身で編み出したものだという。「トライアンドエラーの連続ですけどね(笑)。最初はもう分からないのでとりあえず型でつくるんです。当然そのままできあがってくるのですが、やはり目なんかは違和感あるな、となるわけです。そこからは試行錯誤。人形の目をヒントにしたり、日々の生活でも常にアンテナは張っていますね。」

「食品サンプルの材料」として市販されているものは限られるため、建築の材料や工作のアイテムを工夫しながら取り入れているのだそう。また、牡蠣やアワビなどの貝類は、なんと本物の貝殻を利用。リアリティを出せるのはもちろん、本来なら廃棄されてしまう貝殻を再利用できる地球に優しい試みだ。

小田原らしい食品サンプルはおみやげにぴったり

そんな食品サンプルの魅力を多くの人に伝えるべく、本多さんはさまざまなワークショップに取り組んでいる。「鈴廣かまぼこの里」では、「かまぼこキーホルダーづくり」を不定期で開催。かまぼこ・ちくわ・はんぺんなどの、鈴廣かまぼこの定番商品に、野菜や果物のパーツでデコレーションしオリジナルのキーホルダーをつくる人気のイベントだ。このほか、鈴廣の店内ディスプレイに使われている食品サンプルは、すべて小田原サンプルによるもの。買い物の際はぜひ注目してみよう。

また、小田原城の目の前にある小田原市観光交流センターでは「海鮮丼」の食品サンプルをつくることもできる。食品サンプルのごはんの上にアジやエビ、キンメダイ、サーモン、イクラ、そして自分で刻んだ海苔やシソなど、好きな具材を好きなように盛り付ければ、オリジナル丼ぶりのできあがり。遊び心あふれるアイテムは、小田原みやげにも最適だ。

小田原サンプルの商品を購入したいなら、ぜひ工房へ。魚介モチーフのマグネットや地産フルーツの小物入れなど、小田原らしさがぎゅっとつまった食品サンプルがたくさん。ぜひ手にとって小田原の魅力を身近に感じてみてほしい。

小田原サンプル

〒250-0055
神奈川県小田原市久野181
電話:0465-35-5448
営業時間:8:30-17:30
定休日:日曜、祝日、第1・3土曜

https://odawarasample0465.wixsite.com/odawarasample