トーク&とーく
世界一ソムリエが、風土とフードの環境問題を語る
ソムリエ 田崎 真也さん

地球温暖化でワイン地図が変わっているといいます。
けれど、ソムリエの田崎真也さんは、環境問題はもっと身近にあると懸念します。
大の魚好きという田崎さんが、日本の海から提起する環境問題とは…。

聞き手 株式会社鈴廣蒲鉾本店 代表取締役会長 鈴木智恵子


たさきしんやさん

1958年生まれ。1977年にフランスへ渡りソムリエ修業。1983年「全国ソムリエ最高技術コンクール」で優勝。1955年「世界最優秀ソムリエコンクール」で優勝を果たす。都民文化栄誉賞、フランス農事功労賞シュバリエなどを受賞。1977年から「ワインは憶えてから楽しむものではなく、楽しんでから憶えるもの」をコンセプトに、東京・愛宕で「田崎真也ワインサロン」を主宰する。

負けず嫌いからソムリエの頂点に

鈴木 鈴 のお正月用紅白御蒲鉾『一(はじめ)』の掛け紙の題字は、年ごとに、各界を代表する方に書いていただいております。今年は田崎さんにお願いしました。ソムリエの第一人者にふさわしく、ワインのコルクを筆に、力強い「一」の字をいただき、大評判でした。
  田崎さんがソムリエになろうとしたきっかけは?

田崎
 もともとは料理人になろうとしたのです。和食の板前から洋食に移るうち、どうも接客サービスが向いているのではないかと思い直して。で、フランス料理のサービスの仕事に就こうとしたのですが、そうなると、ワインの知識が必要です。日本にいては本場のブドウ畑を見られないので、十九歳でフランスに渡りました。
 三年くらいで帰国したんですが、まだソムリエという職業は日本にはなかったんです。そのうち、日本でソムリエのコンクールが開かれる、これはいいぞと出てみたんですが、決勝に残れなかったのが悔しくて挑戦を続け、三度目の正直で優勝しました。ですから職業としてよりも、競技としてのコンクールに勝つのが目的で。もともと負けず嫌いでして…(笑)。



ワインの美味しさは、食べものと団らんの楽しさが教えてくれる

鈴木
 いろいろ試したのですが、これは、と思えるワインにまだ出合えません。ワインを本当に、「美味しいなあ!」って思える飲み方を、今日は教えていただこうと。

田崎
 私は食事会などで、次のようにおすすめしています。一回のフルコースの食事で六〜八種類のワインを選んでおいて、料理が出てくる前にまず飲んでいただく。「甘過ぎる」とか「ちょっとクセがある」と感じていた方が、食べてから同じワインを飲むと、「前と全然違う感じがする」と言われます。ワインは、食べ物があったほうが美味しいし、団らんを通してより楽しくいただけることに気づかされるものです。この方法をお好きな料理とワインで試みてごらんになると、ワインの美味しさがわかるきっかけづくりになるかな、と思います。
田崎真也さんの著書

鈴木 和食とワインを合わせるのは難しい、といわれますが。

田崎
 ヨーロッパでは、おすし文化とともに醤油の消費量が増えています。フランスの料理店でも、以前は醤油の使用を隠していたのが、今ではオープンになっていま
す。当然その料理にはワインを合わせて飲んでいるわけで、醤油ベースの和食にワインは合わないというのは、日本人の既成概念に過ぎないと思います。
  フランスにも、すり身を使う、かまぼこに似た料理があります。テリーヌがそうですし、ハンペンのような形状のものもあります。食感に違いはありますが風味上は非常に似たものです。
  そこで、かまぼこのこんな食べ方を考えてみました。サワークリームにマヨネーズを落とし、ハーブを加えたソースでかまぼこをいただく。季節のサラダを添えるとおしゃれですね。かまぼこに合わせるのは、基本的には白ワインで、ドライなもの。ピュアなものが合うので、木の樽の香りがしないものを選びます。ドイツワインのように、少しだけ甘みを持ち、酸味が爽やかなものもいいでしょう。
  かまぼこをワインに合わせるなら、やはりイメージも大切に。ナイフ・フォークで食べる感覚を持ってクリエイトするとうまくいきます。
  トスカーナ風の、青い香りのするエクストラバージンのオリーブオイルとバルサミコ酢をかけ、ライムを絞ってカルパッチョ風にしても美味しいですよ。

大の魚好きだから環境問題が気になって

鈴木  田崎さんは、さまざまな分野で幅広いプロデュースをなさる中、食をめぐる環境についても提 言しておられます。

田崎 環境問題に関心を持ったきっかけは、大の魚好きからなんです。昔、板前になろうとしたのも、魚を料理したり食べたりするのが好きだったことから。釣りもやるのでよくわかるのですが、魚が急激に減っています。
  開発がすすみ無駄なダムを作ったり護岸工事をした結果、山や川に棲む生物の環境が破壊されました。また、
魚付き林を奪うことにより、沿岸魚の大幅な減少を招いています。
  大切なのは、山や川、海を元に戻していくこと。そうしないと、農作物や魚介類がダメになってしまいます。

※魚付き林・・林から落ちた枯葉や虫により繁茂したプランクトンを、皮が海に運び魚の餌となる。また、海面の落ちる林の影が、魚の棲み処となる。このように森林が豊かな漁場を育むことから、魚付き林とよばれている。


鈴木
  私どもかまぼこ屋は、自然の中で生まれた魚を使わせてもらってつくってきたのですが、気がかりなのは、魚がだんだん小さくなっていることです。小さいままで成魚になってしまうんですね。
環境が悪くなっている上に、人間がたくさん獲るもので、早く子孫を残したい魚たちの切ない祈りが
そうさせているのでしょうね。
  生きているものの命を私たちがいただくのですから、大切にしなければいけない。その命を育む自
然環境をまず大切にすることから始めなくてはと、鈴 がずっと取り組んできた活動があります。
  神奈川県と民間企業ボランティアが取り組む、『かながわ水源林パートナー』制度です。水源地域の森林の管理育成や環境保全を目的としており、鈴 もこの活動に参加し、松田町寄の水源林を「恵水の森」と名づけて保護に取り組んでいます。

田崎 そういう努力をなさっているんですね。釣りでしょっちゅう真鶴へ行くのですが、カワハギとかクロムツとか美味しいですね。森が守られ、川が植物プランクトンを半島の周りに運ぶから、いい魚が棲んでいる。魚種も豊富ですしね。今年は十二年にわたるフランスでの教育を終えて、娘が帰って来るので、真鶴に住むことも考えているところなんです。

鈴木
 ぜひ小田原に、と思います。
対談風景

伝統的な食べものを大切にすることを子どもたちに教えたい

田崎 もう一つ、すすめていかなければと気がかりなのが、子どもの「味覚」を育てることです。欧米でも、ファーストフードの増大は深刻な問題になっており、スローフード運動の趣旨に味覚の教育が挙げられています。
  大切な「食べる」時間が、団らんの中にあるのでなく、単に空腹を満たす手段に変わっていますし、味も、化学調味料が主体の人工的な旨味に慣れ過ぎた結果、魚でいえば天然ものより養殖ものを歓迎するようになっている。昨今では、肉でも魚でも、「脂がのっていて、とろけるように柔らかい」のがいいものにまつりあげられており、本来の食品、本当の味がわからなくなっていますね。

鈴木 かまぼこもそうなんです。鈴廣製品はすべて、化学調味料は一切使わず、魚醤や魚介エキスなどの天然調味料を用いているのですが、同じ食卓に味の強いものがあると、おいしいと言っていただけないということも…(笑)。

田崎
 でも、頑張り通していらっしゃる(笑)。天然素材だけを使った素晴らしいかまぼこだと、噛んで歯でちぎったとき、表面積が大きくなるので旨味がどんどん出てくるのです。本物の美味しさを、親が子どもに教えていってほしいですね。次は子ども自身が選ぶよになります。
鈴木
 伝統の食品づくりに関わるものとして、守るべきは何かを改めて感じ入りました。本日はありがとうございました。

東京・愛宕の「田崎真也ワインサロン」で
東京・愛宕の「田崎真也ワインサロン」で
田崎真也さんの店、「レストランS]
田崎真也さんの店、「レストランS]。
シックな空間の中で、フランス料理と
ワインをカジュアルに楽しめる。