魚肉たんぱく同盟コラムVol.13

かまぼこの既成概念を覆せ! スポーツを使った市場拡張プランの全貌に迫る

2021.11.24

鈴廣かまぼこと長友佑都のタッグにより、スポーツ界に新たな旋風を巻き起こしている魚肉たんぱく同盟。この「スポーツ×食」という分野の象徴的なプロジェクトを推進するのは、鈴廣かまぼこの常務取締役・鈴木智博と、株式会社クオーレの共同創業者・津村洋太氏だ。今回は、2人の対談を通じて、魚肉たんぱく同盟という注目プロジェクトの軌跡に迫ってみたい。

――まずは魚肉たんぱく同盟発足の経緯を聞かせてください。

鈴木:わたしたちは、20年ほど前からタンパク源としてのかまぼこの有用性を伝える活動を続けてきました。4年前ほど前に、社長と私がテレビのドキュメンタリー映像を見て、長友選手が魚を中心にした食事を摂っていることを知り、「この人だ!」と2人で話をしていました。その後も継続してかまぼこの有用性を発信していたら、共通の知り合いを通じて、津村さんや加藤シェフと出会ったのが最初のきっかけでした。

津村:そうでしたね。当時は、長友がガラタサライからマルセイユへと移籍しようとするタイミングで、かつ、カタールワールドカップに向けて、さらに進化することを目標に掲げた時期でした。会社のミッションとしては、彼のブランドを強化すること、そしてコンディションを高めることの両面をマネジメントすることが求められていました。だから、共通の知人に紹介してもらったときは、「かまぼこか!」と思いながら、お話を聞きに伺いました。しかし正直なところ、当時はかまぼこのことを全く知らなかったんです。私自身が関東出身ではない、というのがせめてもの言い訳です(笑)。

――そこからなぜ意気投合してプロジェクトが発足したのでしょうか?

津村:長友のコンディションを上げるために、私たちが着目していたのは、摂取する栄養の「質」と腸内環境の改善でした。そんな時に鈴廣かまぼこ11代目の鈴木智博さんと出会い、鈴廣の歴史を知り、商品自体と社員の皆様の品質を追求する姿勢を感じ、ここからの挑戦を伺ったところ、、我々の課題解決にピタリとフィットしていることがわかりました。長友のコンディショニングにもいいし、長友自身が「質」にこだわっているという点も表現できる。しかも世の中の人たちが絶対に知るべきだと感じ、一気に構想を描き始めました。

我々がアスリートの視点から、なぜ鈴廣かまぼこが良いのか、なぜもっとみんなに知ってほしいのかを訴えていくには両者の共感が必要です。「お魚たんぱくで世界を健やかに」 というゴールをめざし、 天然素材を使った新しい商品を生み出し続ける鈴廣かまぼこと、アスリートの価値を基点にモノとサービスを提供し健康課題の解決に貢献するっていう弊社のVisionが同じ方向を向いていたことは、すごく大事なポイントでした。「良いものを伝えたい」って思えたことが、この同盟への第一歩だったと感じています。

――魚肉たんぱく同盟というインパクトのあるネーミングにはどのような狙いがあったのでしょうか?

鈴木:かまぼこをタンパク源として認知してもらうために、かまぼこをどのような言葉に置き換えようかを考えました。「お魚タンパク」「フィッシュプロテイン」「お魚プロテイン」など、幾つかの候補がありましたが、タンパク源としてのかまぼこを最もよく表現できていたのが、「魚肉たんぱく」という言葉でした。このネーミングに決めたときこそが、「鈴廣はこのワードで一生やっていくぞ」と腹を括った瞬間でもありました。

いまは、タンパク源というと、鶏肉や大豆、プロテインなど様々な食品を連想する人が多いですが、その一つとして「魚肉たんぱく」を確立させ、世の中に広めていくことが最終ゴールです。


魚肉たんぱく同盟HP

津村:我々としては、かまぼこと長友をどのように繋ぎこんだら、世の中の人たちにこの取り組みを自分事化してもらえるのか、という議論を重ねました。するとプロジェクトメンバーの一人から「みんなが “ワンチーム”になっていくための旗印になるようなネーミングがいいね」という意見が出たんです。その後、鈴廣の持つ「和」や「老舗」、「歴史がある」といったイメージを掘り下げていくうちに「同盟」という言葉が浮かび上がってきました。「同盟」という言葉には「パートナーシップ」や「アンバサダー」という言葉よりも、目的や目標に対して、同志として繋がって進んでいく仲間のような意味合いがあると思います。戦略的に、長友以外にもたくさんのアスリートを募ろうと考えていたこともありますし、一般の方々が仲間に入りやすい、そういう輪が広がることを意図して「同盟」という言葉を使うことにしました。

――魚肉たんぱく同盟の発足時、どんな理想像を描かれていましたか?

津村:かまぼこというと、おせちやおそばの添え物というイメージがあり、限定的な消費のされ方をしていたことが大きな課題だと感じました。そのようなマーケットの認識を覆し、鈴廣が進化していくために、まずはスポーツという触媒を使って、「タンパク源」としてのかまぼこを認知し、市場を広げようと考えました。

鈴木:かまぼこの市場を拡大することを目指したことが功を奏し、発足当時から、業界の方々から、「良い取り組みだよね」とか「勇気をもらったよ」という声をいただきました。敵を作るのではなく、かまぼこの価値を上げる取り組みとして、同じ業界からポジティブな評価をもらえたことは、非常に良かったと思っています。

――発足から今日まで、どんな活動をしてきたのかを教えてください。

津村:同盟の初期は、長友と加藤シェフからスタートしました。味はもちろんのこと、機能性も備え、非常に体に良いものだという発信を始め、そこに賛同してくれるアスリートを募っていきました。しかし、それだけでは、情報が消費されて終わってしまうので、もっと本質的な取り組みにつなげていくために、クラウドファウンディングサービスのMakuakeを活用して、フィッシュプロテインバーという商品を共同開発させていただきました。この取り組みでは、かまぼこの魅力や有用性、機能性といった鈴廣かまぼこの持つ強みを世の中に訴え、それを理解した人たちが購入する、つまり魚肉たんぱく同盟に加盟することによって、自分ごととして認識してもらうことを狙いました。

これらの活動により、運動後にかまぼこを食べることの意義をはじめ、多くの消費者にとってハッピーな商品であることを訴え、スポーツを使って市場を一気に拡張しにいきました。

――手ごたえを感じていますか?

津村:まず、長友佑都にとっては、確実に手ごたえがあって、毎日食べていますし、奥さんも子どももかまぼこが大好きになりました。それまでかまぼこを食べる機会がほどんどなかったのに、魚肉たんぱく同盟をきっかけにライフスタイルに変化が起きていること自体が、大きな成果だと思います。それに加えて、彼のコンディションも上向いていて、本人自身が習慣にしていることが何よりもの結果かと思います。プロジェクトとしては、現段階で評価されるものではないですが、全くリーチしてなかった層にアプローチし、Makuakeで830万円の支援が集まり、1100名以上の方に購入していただけました。これらのアクティブ層がかまぼこの市場に入ってきたことはポジティブな要素だと思っています。またアンケート結果を見ても、満足度が4点、5点でほぼ100%に近い数字が上がっているというのは、走り出しとしては悪くはなかったと思っています。

――鈴廣さんからはどのように手ごたえを感じていますか?

鈴木:これまで自分たちが接点のなかった30代、40代の男性・女性が、商品を購買してくれたことは初めての経験でした。新しい層にかまぼこ、練り製品が届き、魚肉たんぱくという認知が上げられたのは、すごくポジティブな出来事だったと思います。あとは、長友選手のフィルムを入れた「小田原っ子」という商品が多くの店頭の棚に並んだということも大きな成果でした。おせち以外の時期に、かまぼこが練りの棚から出た場所で展開されることは、これまでとても難しかったんですが、タンパク源としての訴求をバイヤーさんたちにもちゃんと理解してもらい、平台で展開ができたことはプライスレスな効果でした。また、小田原のサッカー少年たちが試合後に「小田原っ子」を食べて「僕たちこれで強くなります」みたい情報発信をすることがプチトレンドになっていたことは、今回の取り組みの全てを表していて、すごく印象的な出来事でした。

――今回、老舗の鈴廣さんとアスリートが組むことによって様々な化学変化があったんですね。

津村:私たちとしては、アスリートの価値から作りだした商品・サービスで、健康課題の解決をするという、会社のビジョンに掲げていることを具現化できたプロジェクトになりました。今回のプロジェクトにおいては、ただのキャスティングの機能ではなく、長友佑都の強みをしっかりと認識している我々が、そこをマネジメントして、アウトプットすることができたから、世の中にとてもストレートに伝えられたと思いました。それがこのプロジェクトの「らしさ」かなと思ってます。

――長友選手のようなアイコン的な存在と組むことによって、社内外に対してどんな影響がありましたか?

鈴木:今でも取材の依頼が来ているように、この取り組みは賞味期限が長いんです。それは、長友さんの人間力や、食に対する意識の高さが、今回の取り組みとすごくマッチしているということが根底にあると思います。もともと食は、あまり嫌味なく宣伝できると思っていましたが、そこに長友選手のスポーツ選手としての価値を生かし、スポーツ選手のコンディションにストレートに還元していくことができるんだと訴求することにより、みんなが食というものを理解しやすくできたのではないかと思っています。

――今後予定している魚肉たんぱく同盟の展開について教えてください。

鈴木:「魚肉たんぱく」という言葉を一般名称化させたい。だから「鈴廣が行なっている魚肉たんぱく同盟」というように自分たちだけで閉じるのではなく、世の中のかまぼこ屋をはじめ、魚肉たんぱくを扱っている全ての食品メーカーとともに、タンパク源としての魚肉の重要性を発信して、タンパク源の一つとしての認知を獲得したいと思っています。そのためにも、今後は、流通用のフィッシュプロテインバーなどの新しいプロダクトの開発も行なっていきたいとおもっています。

津村:今回の取り組みをきっかけに、鈴廣かまぼこ全体のブランドの若返りや進化に少しでも力になれればいいなと思っています。そのためにもフィッシュプロテインバーのような商品を開発し、新しいターゲットに向けたタンパク源としての魚肉たんぱくを確固たるものにしないといけません。また今回の魚肉たんぱく同盟では、スポーツ層をターゲットにしてきましたが、今後はさらに進んで、子どもの成長のためには、かまぼこが家に毎日一本あると安心するような、納豆や卵のような存在になっていくことが目指すべき世界なのかなと思っています。

書き手:瀬川泰祐(スポーツライター・エディター)

株式会社カタル代表取締役。HEROs公式スポーツライター。Yahoo!ニュース個人オーサー。ファルカオフットボールクラブ久喜アドバイザー。ライブエンターテイメント業界やWEB業界で数多くのシステムプロジェクトに参画し、サービスをローンチする傍ら、2016年よりスポーツ分野を中心に執筆活動を開始。リアルなビジネス経験と、執筆・編集経験をあわせ持つ強みを活かし、2020年4月にスポーツ・健康・医療に関するコンテンツ制作・コンテンツマーケティングを行う株式会社カタルを創業。取材テーマは「Beyond Sports」。社会との接点からスポーツの価値を探る。
公式サイト http://segawa.kataru.jp