魚肉たんぱく同盟コラムVol.42

青山学院大学 駅伝部監督の原晋氏が魚肉たんぱく戦略アドバイザーに就任。名将であり名教育者が心打たれた「魚肉たんぱく」のポテンシャルとは

2025.05.12

青山学院大学駅伝監督の原晋氏が、鈴廣かまぼこの魚肉たんぱく戦略アドバイザーに就任。「本当にいいもの」だけを取り入れる原氏はどのように魚肉たんぱくを捉えているのでしょうか?

原 晋 氏プロフィール
青山学院大学 駅伝部監督。1967年3月8日生まれ。広島県三原市出身で、中京大学を卒業後、中国電力陸上競技部の創設メンバーとして活躍。1995年に競技生活を引退し、同社で営業職として勤務した後、2004年に青山学院大学駅伝部監督に就任。2009年には33年ぶりに箱根駅伝出場を果たし、2015年には同大学初の総合優勝を達成。2024年第100回箱根駅伝では大会新記録で総合優勝を達成。2025年第101回箱根駅伝で前年の記録を更新し、大会新記録で連覇を達成。また、2019年からは青山学院大学地球社会共生学部の教授として教育にも携わっている。

――原監督ご自身は、食に関してどのような考えをお持ちでしょうか?
陸上競技、とくに長距離は自分の身体一つで長い時間勝負する競技ですので、トレーニングはもちろん、休養や睡眠と並んで「食」が大切だと考えております。食は特に欠かすことのできない要素ですので、栄養学の知識を身につけながら、こだわりを持って指導しています。どれだけトレーニングをして休んだとしても、食事が質素であればいい筋肉はつきません。
陸上選手は疲労骨折が非常に多いため、骨や筋肉の形成において魚の摂取が重要であると考えています。その点においても、タンパク質が豊富なかまぼこは、私たちにとって非常に親和性のある食材だと思っております。

――青山学院大学では、どのような栄養指導を行っているのでしょうか?
青山学院大学では「食べること」を非常に重要視しています。たとえ練習に参加できない時期でも、「しっかり食べなさい」と指導しています。以前は「練習をしていないなら太るから食べるな」という考えが主流でしたが、私たちは「トレーニングを再開すれば自然と体は絞れる。だからこそ、筋肉をつけるために食べることが重要だ」という考えです。

また、栄養士をしっかり雇用して、長距離にとって重要な「食」の部分にきちんと取り組んでいます。基本的には、脂質・糖質・炭水化物という三大栄養素をしっかりと摂ることを重視しています。タンパク質においては、肉と魚の両方をバランスよく摂取するように心がけていますね。太りやすいという印象がある炭水化物の摂取も一定量をしっかり摂取するように定量的に管理しています。具体的には、ご飯の量を計量カップでしっかり計測し、1日300gを食べるようにしています。昨年のキャプテン、田中悠登は練習を重ねると痩せすぎてしまう体質だったので、炭水化物を400~500g摂取させていました。

昨年12月に寮のリニューアル工事を終えて、寮内で食事を提供できるようになりました。
そこに、私の教え子である元マネージャーの栄養士が、日大の水泳部の合宿所で経験を積んだうえで戻ってきてくれました。現在はその彼が中心となって調理を担当し、私の妻がそのサポートをしてくれています。このような状況の中、質のいいタンパク質を摂取できるかまぼこは、私たちにとって、とても重要なアイテムだと考えています。

――原監督自身が学び、食事管理への追求を行っている印象ですが、選手たちも納得したうえで取り組んでいる印象を受けました。原監督は選手に対して、どのような教育を行っているのでしょうか?
陸上部での活動の中では、しっかり会話ができるようになる、語彙力を身につける、1ヶ月分の練習計画を渡された時にどう目標に向けて取り組むのか、自分のコンディションに応じてどう分析・調整していくのか、そういった力を養うことに力を入れています。

もちろん、ファーストキャリアを伸ばすことも大切ですが、それ以上に引退後の「セカンドキャリア」を見据えて準備することが重要だと、実体験を持って感じています。これは「デュアルキャリア」という考え方になりますが、競技を通じて社会で役立つスキルや価値観を身につけさせることが、指導者の使命だと考えています。
私はもともと、広島県にある中国電力で働きながら、一期生として陸上部に所属していました。しかし、入部から5年で戦力外通告を受け、陸上部から外されることになったんです。そこから約10年間、普通の会社員として働き、その後に青山学院大学陸上競技部に関わるようになり、現在で22年目になります。

私が現役だった当時は、「陸上選手としてのレールに乗ることこそが幸せだ」という風潮が強くありました。つまり、「陸上しかやってはいけない」「陸上に全力を注ぐべきだ」といった考え方ですね。そして、そのレールから外れた人は“失敗者”だという認識があったんです。

果たしてこの考え方は本当に正しいのか――私は自分自身の経験を通して、それを深く考えるようになりました。引退後、私は社会に放り出される形になり、コミュニケーション力や受け答え、計画力や分析力といった基礎的な力がまったく身についていないことに気づかされたんです。「陸上をやってきたことが、果たして社会にどんな貢献ができるのだろう」と自問する中で、陸上しか見てこなかった自分を振り返り、反省するようになりました。トレーニングは1日3〜4時間程度しかない中で、それ以外の時間に何をしてきたのか、という問いも出てきましたね。

私自身、営業職を経験したことで、お客様としっかりコミュニケーションをとること、Q&Aを想定して自分から働きかけることの大切さを学びました。このような実体験があったからこそ、私は指導者として、陸上だけでなく人生そのものを豊かにするきっかけを学生たちに与えたいと強く思うようになったんです。

こうした学びを通じて、卒業後も陸上競技を続ける選手もいれば、一般企業で活躍する者もいます。学生たちに多様な選択肢を持たせているので進路は「陸上一本」にはなりません。たとえば、昨年の箱根駅伝で5区の山登り区間新記録を樹立した若林宏樹選手は、日本生命に就職し、競技からは引退しました。もし彼が他大学の所属であれば、競技を続けていた可能性は高いと思います。しかし彼は、「別の道で頑張りたい」と自らの意思で選択しました。青山学院大学の選手たちは、陸上を続けるという選択肢のほかに、一般企業への就職、あるいは起業など、多様な進路の可能性を持っています。私たちは、そうした多様性を大切にする組織づくりを進めています。

――鈴廣かまぼこでは、次世代の経営層を育成するプログラムを行っています。原監督は自主性を重んじる教育によって、次世代のリーダーを育て上げている印象です。リーダー人材を育てていくためには、どういったアプローチをすれば良いのでしょうか。
そうですね・・・。あえて言えば、経営陣が「経営者をやらないこと」だと思っています(笑)。たとえば、陸上競技の現場で例えると、私はコーチ陣や選手たちに対して、細かく指示を出さないようにしています。リーダーが持つ権利は、“拒否権”だと考えており、その“拒否権”をどこで発動するかが重要なんです。
実際、組織内に成熟度の低い人材が多いと、拒否権の発動は早く、頻繁になってしまいます。一方で、レベルの高い人材が揃っていれば、拒否権はほとんど使わずに済む。つまり、リーダーは組織の方向性をしっかり見ていればよく、細かいところまで口出しする必要はないと考えています。

あれがダメ、これがダメと一つひとつ指摘してばかりでは、選手はいつまで経っても成長しません。やり方だけを教えてしまうと、表面的な“モノマネ”はできても、本質を理解することはできない。ですから、しっかりとした知識や考え方を教えたうえで、あとは自主性を重んじる指導が大切だと考えています。
これは企業にも通じる話で、大企業の課題の一つは「経営者のような感覚を持った社員が育ちにくい」という点にあります。たとえば、一つの商品を販売するにあたって、部署ごとに業務が分担されていると、社員が0から10まで一貫してプロジェクトを遂行することができません。そのため、仕事に対して“責任”や“やりがい”を感じにくくなってしまうのです。
結果的に、どこでどのような課題が生じているのか、プロセス全体を横断的に把握することが難しくなります。また、役員クラスでも“担当役員制”があるため、全体を見渡す視点が不足しがちです。だからこそ、「マネジメントが本当にできる経営者」は実は非常に少ないと感じています。

仮に私が鈴廣さんの経営に携わるとすれば、一つの大きな商品を、広報から営業まで含めて0から10まで、すべて社員に任せてみたいと思います。そうすることで、社員一人ひとりが責任を持ち、やりがいを感じ、風通しのよい健全な組織文化が育まれていくのではないでしょうか


かまぼこ博物館視察の様子

――鈴廣かまぼこは、魚肉たんぱく質を切り口に、小田原市から日本全国・世界にかまぼこを普及させようと挑戦しています。原監督がより高い目標をチームに浸透させる上で意識されていること、また常勝チームを作り上げる過程で実践されてきた取り組みについて教えてください。
私は「目標」と「妄想」をしっかり使い分けることが重要だと考えています。
目標というのは、“手の届きそうな半歩先”に設定するべきものです。一方で、10年後、100年後のような将来的なビジョンは“妄想の範囲”に入るものです。ですから、妄想力を働かせて大きな夢を描くことも大切にしつつ、現実の半歩先にある目標を一つひとつ確実に達成していく。その積み重ねによって、10年経てば、かつては“妄想”だったものが現実的な“目標”になっている、ということがあるのです。

実際に私が駅伝監督に就任した際には、「5年で箱根駅伝に出場する」「10年以内にシード権を獲得する」「10年以降は優勝争いができるチームに育てる」という10年ビジョンを掲げました。その中で、まずは5年以内に出場を目指すという“手の届きそうな”目標を選手に共有し、努力を重ねてきたという歴史があります。

また、チームの目標と個人の目標、この“両輪”を動かしていくことも非常に大切です。もちろん、選手一人ひとりの能力は異なるため、同じ目標を共有するのは難しい部分もあります。そのため、チームとしての目標のほかに、個人としての目標も設定し、それを達成したらしっかりと認めてあげる。そうした文化づくりが、組織としての成長に繋がると考えています。

――今後、鈴廣かまぼことどのような取り組みをしていきたいとお考えですか?
“食”という要素は、陸上競技において最も重要な要素と言っても過言ではありません。トレーニングの質を高めること、そして十分な休養をとることと並んで、食事の質が選手のパフォーマンスを左右するからです。

実際、休養の面ではライズマットレスさんと連携し、マットレスやケアグッズの導入を進めています。食の面に関しては、今後さらに「食×スポーツ」の融合をどう図っていくか、という点において、鈴廣かまぼこさんとの取り組みには大きな期待を寄せています。

鈴廣さんは、箱根駅伝における“名物”としてのポジションを確立されています。昨年より私は箱根駅伝対策委員長としてマーケティングプロジェクトを担当しています。青山学院大学だけでなく、全出場校と共同で商品開発に取りめるといいですよね。かまぼこや魚肉たんぱくとスポーツの新たな価値提案をしていけたらと思います。