魚肉たんぱく同盟コラムVol.5

女子サッカー選手と社会起業家。2足のわらじで全力疾走する下山田志帆を支える、食とタンパク質とは?

2021.07.07

女子サッカー名門の十文字高等学校を卒業した後、慶應義塾大学ソッカー部女子を経て、大学卒業後は単身ドイツへと渡った下山田志帆選手。2019年からはプレーの場を日本に移すと、女性スポーツの価値向上やLGBTQに関する情報発信を開始。今年に入って、社会課題にアプローチするフェムテック事業も本格的に始動した。

下山田選手は、現在女子サッカー選手と社会起業家の2足のわらじを履き、忙しい毎日を過ごしている。十分に休息が取れないことも多々ある彼女を支えている食とタンパク質とは?

下山田志帆(Shiho Shimoyamada)選手プロフィール
1994年12月生まれ、茨城県出身。つくばFCレディース、十文字高等学校、慶應義塾大学でプレー。2015年ユニバーシアード大会の日本女子代表候補。17~19年、ドイツ女子2部リーグのSVメッペンに所属。19年7月からなでしこリーグ1部のスフィーダ世田谷FCでプレー。10月には、共同代表として『株式会社Rebolt(レボルト)』を設立。女性アスリートによる社会課題解決を目指し、「吸収型ボクサーパンツOPT」等の商品開発を進めている。

女子サッカー下山田志帆選手

―まずは簡単な自己紹介と、サッカーの経歴について教えてください。

下山田志帆です。1994年生まれの26歳で、現在はなでしこリーグ1部のスフィーダ世田谷FCに所属しています。ポジションはDFです。サッカーと並行しながら株式会社REBOLTの共同代表として、「吸収型ボクサーパンツOPT」という新しい生理の選択肢の開発にも取り組んでいます。

吸収型ボクサーパンツ

サッカーを始めたのは小学3年生のときで、最初のチームは男子と一緒の少年団でした。小学4年生からつくばFCという女子チームにも入り、中学生までは男子の部活動と女子チームの2つに所属していました。高校時代は東京の全国大会常連校だった十文字高校でプレーし、卒業後は慶應義塾大学に進学しました。大学卒業後にはドイツの女子2部リーグに挑戦し、2019年に帰国してスフィーダ世田谷FCに加入しました。

女子サッカー下山田志帆選手

―ユニバーシアード代表候補にまで選ばれながら、大学卒業後になでしこリーグへ進まず、海外挑戦を決断したのはなぜですか?

「海外挑戦したかったので」とかっこいいことを言えればいいのですが、単純にサッカーを辞めている自分が想像できなかったことが大きな理由の1つです。そして、自分はサッカーとプラスアルファで他のことを一緒にやってきたからこそ自身の成長が最大化したと思っていたので、社会人になってまだサッカーができるのに、辞めてしまうもったいなさを強く感じていました。

一方、私の大学卒業当時は日本の女子サッカーにまだプロリーグがなく、サッカーをしながら所属クラブのスポンサー企業で働いて、引退後のキャリア形成に悩んでいる選手の姿をたくさん目にしてきました。そこで自分自身の人生を考えたときに、「スポンサー企業で働きながらなでしこリーグでプレーする」という選択肢に怖さを感じていました。海外でプレーするならプロという選択肢もありますし、サッカーにプラスアルファで何かを得られそうというという本当に単純な理由で「じゃあ、海外に行ってみよう」と考えたんです。

―当時ドイツ女子2部リーグに所属していたSVメッペンと契約して、実際にプロサッカー選手になりました。ドイツでは渡航前に想像していた生活を送れたのでしょうか。

ドイツに渡ったときは、海外へ行くこと自体が挑戦であって、きっと何かを得られるだろうと思っていたんです。けど、向こうに行って「何かを得られるだろう」では何も得られないことに初めて気がつきました。サッカーをしているのは1日あたり2時間くらい。何もしていない時間がたくさんあって、「あれ? 何かおかしいぞ…」と考え始めました。するとドイツの田舎で、ある意味「時間を浪費している」感覚がすごく大きくなって。それではダメだと思いましたし、サッカー以外の時間でも自分自身が価値を示せて、それがサッカーにつながるような仕組みを作りたいと思って帰国することにしました。

女子サッカー チーム

―2019年1月に下山田選手ご自身がLGBTQの当事者であることを明かしました。現役アスリートのカミングアウトには大きな反響があったと思いますが、いかがでしたか?

当時、LGBTQの当事者であることをカミングアウトした日本の現役選手は私が初めてでした。様々な反響をいただくなかで、自分自身が今まで感じてきたモヤモヤや違和感を声に出すことによって誰かの気持ちを楽にすることができたり、組織の何かを変えることができたり、新しい価値を生み出せるんだと気づきました。

―実際にその気づきにより大きな影響力を持たせるために、女子サッカー選手や女性アスリートの社会的価値を高めていく必要性を感じているのではないでしょうか。

ドイツ時代にすごく悔しかったエピソードがあるんです。海外だとプロ契約をしていて、プロ選手としての扱いを受け、プロであることへの責任を持てと言われ続けてきました。けど、日本に一時帰国すると「まだ遊んでるの?」「親のスネかじっているんでしょ」みたいに言われることがありました。そういう経験をしたときに、サッカーをやっているだけでは選手としての価値を高められない、特に私のレベルの女子サッカー選手ではまだ難しいんだと感じたんです。

今、サッカー選手である自分にプラスアルファで価値をつけるにはどうすればいいんだろうと考えると、サッカー以外の時間で誰でもできることをやるのはすごくもったいないと思いました。もしかしたら現役の間はサッカーをしている時間が一番楽しいかもしれませんが、引退してサッカーを本気でやらなくなったとき、自分の中に何も残っていないことに初めて気づくのでは遅いんです。もっと積極的に外の社会にも触れて、サッカー以外にも夢中になれるものを見つけていくべきではないかと考えています。

女子サッカー下山田志帆選手

もちろん制度的な問題もあると思います。女子サッカー界に限らず、物事に価値をつける時、基準の1つとして「お金」で測られることがあります。現状、女性スポーツ界やLGBTQといったマイノリティのコミュニティには、とにかく「お金」がないし、外部からもそう思われていると感じています。ならば選手や業界自体が自分たちの頭でどのように「お金」が回る仕組みを作れるか考えなければいけません。この問題を解決するための手段として、私は「REBOLT」を立ち上げました。女性スポーツ界の問題は様々な社会課題ともリンクすると思っていて、多くの人々の共感を生んで、そこからソリューションが導き出され、お金も回っていき、価値が生まれるというサイクルは共通しています。
自分たちはアスリート視点で女性スポーツ界の問題を提起し、一般社会との共通項を見出しながら、社会と一緒になって解決していけるプロダクトやサービスを作りたいと思っています。

―では、サッカー選手と起業家を両立していくうえで難しいことはありますか?

全ては時間だと思います。サッカー選手である以上、毎日の練習や週末の試合にどれだけ全力を尽くせるかが重要です。でも、今の自分にはそれが少し難しくなっています。怠けているわけではなく、物理的に難しくなっているのが悔しいですし、キツいですね。トレーニングしたいのに仕事で頭が疲労していてなかなか動き出せないことも、逆にアスリートとして食事はしっかり摂りたいのに、急な仕事が入ってしっかりとした食事をする時間がないこともあります。両立を目指していながら、両方ともうまくコントロールできていないことを反省する日々です。

女子サッカー下山田志帆選手

―サッカー選手として食事に対するこだわりはありますか?

今までの人生で、経験値としてちゃんとバランスよく食べることや、しっかり量を食べることの重要性は段々とつかめてきました。ごはん、たんぱく質、野菜は必ず揃えようと思っているので、例えばコンビニのおにぎりだけになるのは嫌なんです。食べるならごはんもおかずも揃ったお弁当を食べたい。忙しいときにZoomのミーティングに出ながら、画面に自分の顔の上半分だけを映して、下半分でこっそり食事をするスキルも身につけました(笑)

自炊もします。私は時間があれば丁寧な暮らしをしたい。器がすごく好きで、器にちゃんと盛りつけて、写真まで撮って食べたいくらいです。特にコロナ禍で家にいることの多かった時期は毎日自炊していましたし、ドイツ時代も時間があったので毎日料理のことばかり考えていました。本当にそれだけが楽しみみたいな時期もありましたね(笑)。私、ドイツの食事は今でも夢に出てくるくらいすごく好きで、肉ばかりのイメージがあるかもしれないですが、実は意外とバランスよく食べられる環境なんです。パンがあって、ハムとチーズもあって、新鮮な野菜も買える。肉はすごく安いですし、毎日の自炊が捗りました。今よりもはるかにいい食事をしていたと思います。

あと、朝食も大事にしています。どんなに忙しくても、ちゃんと朝7時に起きて朝食をとる習慣は保てていますね。朝だけが唯一、誰にも邪魔されずに食事できる時間です。朝食は絶対にパン派で、ソーセージと、フルーツにヨーグルトをかけたものを食べる。毎日そんな感じです。

―チームの練習時間が夕方から夜にかけてだと、夕食を摂る時間をいつにするかはとても難しいですよね。練習前だと少し早くてサッカーの後にお腹が空き、練習後に帰宅してからだと遅すぎるのではないかと思います。

おっしゃる通りですね。今のサイクルだと、私の場合は練習前に干し芋を炭水化物代わりに食べておいて練習のエネルギーにして、練習後には肉や野菜、ヨーグルトなど、食べられるものを食べる。夜はたんぱく質中心にして、炭水化物をあまり摂らないようにしています。

―食生活はピッチ上でのパフォーマンスにも影響しますか?

間違いなく影響します。もちろん失敗もたくさんしてきています。例えばドイツ時代に、本を読んで、参考にしながら糖質制限をしたことがあったんです。ただ、私の場合は結果的に失敗でした。めちゃくちゃ痩せましたし、常にエネルギー不足のような状態になってしまいました。

選手でよくあるのは、遠征先で朝食を摂り過ぎてしまうことですね。バイキング形式だと無意識に普段自分が食べているよりも多い量を取ってしまって、食べ過ぎてしまうことがあります。私の場合、朝食の量にパフォーマンスが左右されるタイプなので、うまく排便されなくて試合に影響が出ることもあります。ただ、自分にとって何がダメで、何をどれくらい食べたら体重が何キロになるという感覚は、長友選手の書籍を参考にした糖質制限でコンディションがどん底まで落ちたおかげでつかめたものでもあります。

―先ほど「練習後にたんぱく質を摂る」というお話をされていましたが、魚肉系のたんぱく質を摂ることはありますか?

ありますね。私はコンビニで売っているサラダチキンが苦手で、プロテインを飲んでも足りないと思ったら、よくカニカマやちくわを買って食べています。

―鈴廣のかまぼこも食べていただきましたが、味や摂取後のプレーへの影響はいかがでしたか?

私はかまぼこを板から剥がしてそのまま食べたんですけど、すごくおいしくて、1本まるごときれいに食べられました。夜、練習から帰宅して、料理をするのも面倒だと感じるくらいすごく疲れていた日だったので、すごく楽に食べられたのは便利で助かりました。

女子サッカー下山田志帆選手かまぼこ食す

―今回、「魚肉たんぱく同盟」という活動が始まり、今後も様々な形で魚肉たんぱく質の魅力を発信していく予定です。下山田選手はたんぱく質を摂取する際に魚肉という選択肢を意識されたことはありますか?

正直、これまで魚肉を特別に意識したことはなかったです。ただ、なでしこリーガーの立場から言うと、みんなが最も困っているのは練習後の食事だと思います。疲れて帰宅して、肉を焼くのは面倒だし、かといって毎日食べるのにお刺身は高い。そういう意味で、たんぱく源として「かまぼこ」はちょうどいいのではないかと感じています。

私自身、情報が少なすぎて食事で失敗した経験もたくさんあるので、まずは知識を得られる場があるのは重要だと思います。誰が何をして、どうしたら成功して、何が失敗だったのかという知見をたくさん蓄積して、そこから自分に合ったものを選べればいいですよね。まずは知ることから始める。そのきっかけとして「かまぼこ」が軸になっていくのは、とても面白いと思いますし、大きな意味のある発信なのではないかと思います。

―実際に鈴廣のかまぼこを手にとって、食べてみて、こんな製品があったらいいな…というアイディアはありますか?

先ほど、練習前に干し芋を食べるという話をしました。なぜ干し芋がいいかというと、ひと口サイズの芋が袋にたくさん入っていて、何か別のことをしながらでも、片手でつまんで食べられるからなんです。だから焼き芋ではなく干し芋。なので板から剥がさなくてよく、スティック状のかまぼこが小分けに入っている製品があれば、より手軽に食べられるようになるのではないかと思います。

書き手:舩木 渉(ふなき・わたる)

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。
大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。
世界20ヶ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。