ほうぼう歩き回って餌を探す
昔から、祝い魚として赤い魚は欠かせない。代表選手のマダイから金目鯛、アマダイ、メバル、ホウボウなど、その多くが海底近くに棲む。深場に暮らすものほど鮮やかな赤色なのは、水中深くでは赤い光は届かず、体色の赤が保護色になるからだ。
ホウボウは、内湾の、水深六百メートルくらいまでの砂泥質の海底に棲み、薄紫色を帯びた朱色の体色が美しい。
体は、海底生活に都合よくできている。胸元には、ヒレが進化した歩脚が三対あり、その先端部に感覚細胞があって、歩き回りながら好物のエビ、シャコ、カニなどを探り出す。海底生物の研究で知られたアメリカのウィリアム・ビーブ博士によれば、歩脚は左右交互に動くという。
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白身の上品な味わいを生かした「ホウボウのポワレ バターソース」
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名の由来は”ホウボウ”と鳴くから?
ホウボウの名の由来は、さまざまだ。
マンボウに見るとおり、ボウには魚という意味があり、這う魚なので”ホウボウ”であるという説が一つ。また、丈夫なウキブクロの随意筋をふるわせて出す鳴き声が、ほうぼうに響き渡るほどだからともいう。鳴き声については、夜行性の魚でもっぱら夕方に鳴くから、ラブコールだとも。ちなみに英名ではgurnardで、ぶつぶつ言う魚の意味だそう。
いずれにしても、姿形、行動ともユニークな魚である。三十センチ以上に成長すると顔つきでメス、オスの識別ができるという。正面から見て頬が厚くふくらんだのがオスで、スマ
ートなのがメス。二次性徴の表れなのだそうだが、頑丈な骨格の四角頭は、お世辞にも美男美女には見えない。
こんなホウボウに、造化の神は美しく、また機能的な胸ビレを与えたのである。海底に静止していると、畳まれて目立たないが、泳ぎ出すと、鳥が飛び立つときのよ
うに胸ビレを扇型に広げて、ゆるやかに舞い上がる。胸ビレは大きく、鮮やかなコバルトブルーに縁取られたウグイス色で、派手な青色の模様がある。この模様は、胸ビレを広げたときに上向きになるので、威嚇に役立っているのだろうと考えられている。
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おめでたい席で大活躍したホウボウ
ホウボウは、頭が固く、鳴き声を出すので、「頭の骨が固くなるように」とか、「夜泣きをしないように」との願いを込めて、昔から赤ん坊のお食い初めや箸初めに用いられてきた。ヒレのトゲが鋭いので、喉に骨やトゲが刺さらないように、ともいう。
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嫁迎えに、仲人がホウボウ二尾を角樽に乗せて持っていく風習は、愛媛県宇和島地方に残っている。
神奈川県二宮町の老漁師の回顧によれば、お正月、二月の稲荷講、海の安全を祈る四月の竜宮さんと、ホウボウは多くの祝い事に登場したが、一番多く使われたのは七五三の祝いだったという。二尾の頭を揃え、奉書紙を敷いた盆か皿に、青い葉とともにのせて神前に供え
た。
祝い魚として需要は集中するが、群れで動かない魚だから多くは獲れない。定置網に混入するのを待ってもいられないから、延縄の一種、ホウボウ縄を用い、一人か二人乗りの小さな船で、日に何度も出漁し、釣っては貯めておいて魚市場に出したという。
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美しい胸ビレを広げたホウボウ。
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海を大切にし、守っていきたい沿岸魚
ホウボウを栄養価で見ると、白身の魚にしては四・二グラム(成分値)と脂質が多め。タンパク質もかなり豊富だ。ミネラル類についても、カリウム、ナトリウム、カルシウムなどが割と多めに含まれている。
見てのとおり、骨太の魚だから、食べられる部分は全体の四割くらい。無骨な姿とはうらはらに、身は繊細で美味。北陸地方では君魚と呼ばれ、君主の食膳にのぼる美味な魚の意だ。
板前は、「ホウボウは羽根が命」といい、大きめのものなら、胸ビレを広げて華やかな姿造りにする。ムチムチとした食感も喜ばれ、評価はマダイ以上となる。
小さなものなら、煮こごりにすると絶品。ウロコ、ぬめりを包丁で落とし、内臓を除いて、皮に飾り包丁を入れてからじっくり煮込む。翌朝、煮汁がゼリー状に固まったところをいただく。コラーゲンがたっぷりだから、もちろん美容にもいい。
東海道本線の早川と根府川駅との間、車窓から見下ろす米神漁港突堤の沖合に、鮮やかなオレンジ色の”浮き”が並ぶ。小田原市漁協の定置網だ。ホウボウは、冬から春にかけてが旬。アマダイなどに混じって入ってくる。
「今年は多いほうかな」
と、年輩の漁師さんが言っていた。
ホウボウは、大漁で浜を賑わせることもないかわり、ずっと人びとの暮らしに寄り添ってきた沿岸魚だ。海を大切にして、これからも仲良く共存していきたい。 |

左上・かごの中/奥より左回りにホウボウのちまきずし、ホウボウの肝のぬた和え、ホウボウの煮こごり、ホウボウの昆布じめの卯の花和え。右/ホウボウのお造り。手前の椀/ホウボウの潮仕立て。右の焼き物/ホウイボウの木の芽焼き。
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