日本人の感性に訴える
ビーフステーキはまさに芸術品

炭火焼ステーキ懐石「あらがわ」本店 代表取締役社長 風間 昭氏

聞き手 株式会社鈴廣蒲鉾本店 代表取締役会長 鈴木 智恵子

但馬牛は代表的な和牛の一つです。この但馬牛にこだわりつづける風間社長。
長年の経験をもとに創り出される但馬牛のビーフステーキは、
牛肉本来の旨味を存分に引き出した味の芸術作品です。
ビーフステーキ本来の姿を追い求めて

鈴木
 かねがね「あらがわ」さんのビーフステーキは
日本一美味しくて日本一お高いという話を聞
いておりましたが、そのステーキにかかわる
お話をゆっくり伺いたいと思っておりました。

風間
 皆さんそうおっしゃってくださいますが、今の
日本の食肉事情の中で、美味しい肉を提供
したいとなると、どうしても値段の方が高く
なってしまうんです。その辺の事情については
後で触れることにしまして、まず私どもで
使っている但馬牛という牛について、ちょっと
お話しておきましょう。

鈴木
 但馬というと兵庫県になりますね。但馬牛と
神戸牛とは違うんですか。

風間
 どちらも違いはないんですが、神戸牛という
名称は、かつて神戸港に入ってきた外国の
観光船の乗客や、欧州諸国の軍艦の乗組員
などが、神戸で食べる牛肉が美味しかった
ので、日本の牛肉といえば神戸牛ということに
なったんですね。ところが、この神戸牛というの
は、実際には三田(さんだ)で育てられる牛な
んです。ですから、私どもは今でも但馬牛とか
但馬三田牛と言ってるんです。ただ、地元で
は三田の牛は他の牛とは別扱いをしています。

鈴木
 その但馬の牛に社長さんがこだわって、使い
つづけておられるには、それなりの理由が
おありなんでしょう。

風間
 但馬三田の牛は、競争馬のサラブレッドの
ように
血統がはっきりしているんです。血統管理が
しっかり行われていますから、ルーツを
辿っていくと、同じ但馬三田の牛でもステーキに
向く牛とかすき焼きに向く牛とか色々なタイプが
あることが分かるんですね。

鈴木
 牛はまるまる一頭お買いになるんですか。

かざま あきら氏

昭和18 年(1943 )10月、父親の任地台湾
で生まれる。拓殖大学卒業。食への関心が高じ
て現在の仕事を始める。炭焼ステーキ懐石「
皮(あらがわ)」のほか、ステーキ「哥利歐(ご
りお)」、れすとらん「芭爾札克(ばるざっく)」
のオーナーとして、カザマグループの経営に携
わる。厳選された素材と自然の恵みをそのまま
生かした当店の料理の世評は高い。ワインに
対する造詣の深いことでも知られている。

買いたいと思う牛は大体 深窓育ちのお嬢さんタイプ

風間
 いやいや一頭買ってもどうにもなりません。何しろ一頭の目方が六〇〇キロを優に
超えるんですから、ステーキに使える部分だけを頂戴して、あとは肉屋さんが捌くように
なっています。私どもで使っている部位はフィレ(テンダーロイン)、
ロース(サーロイン)
ですが、本来のビーフステーキはフィレの真ん中のシャトーブリアンとロースの真ん中の
ロインと呼ばれる部分です。いずれにしても最上級の肉質のところばかりで、600キロの
うち私どもが使えるのは大体44キロか45キロ、これがお客さまにお出しするときは、こ
の半分ぐらいになってしまいます。

鈴木
 姿形を見て、ステーキに向く牛かどうか判断できるものなんでしょうか。

風間
 肉屋さんなら分かるかもしれませんが、私どもで
は、そこまではちょっと無理ですね。ただ、品評会
に行きましたときに下見をするんですが、その際
にまずその牛が健康かどうかを見ます。爪とか毛
の艶ですね。それと、お笑いになるかもしれません
が、買いたいと思う牛とは不思議に目が合うんで
すよ。こういう牛は大体深窓育ちの、おしとやかな
お嬢さんタイプなんです。牛にも色々性格がある
ようで、ちょこちょこして落ち着きのない牛は避け
るようにしています。ところが、買いたいなと思う牛
ばかり見てますと、どういうわけか値段がどんどん
上がって、ときには競り落とせなくてがっかりするこ
ともあるんですよ。

鈴木
 美味しいステーキが食べられるまでには、そんな
ご苦労がおありとは全く知りませんでした。最高級
のお肉を使って、それも僅かな量だけしか使えな
いとなれば、一人前が五万円というのも、頷けない
お値段ではないかもしれませんね。

風間
 実はその点で困惑しているんです。周りが値段の
ことだけを取り上げるんで、一人前五万円という値
段だけが一人歩きしてしまった感じでしてね、ステ
ーキの肉質とか分量、作り方などについてはご存じ
ない方が多いんです。私どもでお出ししているのは、
サーロインで厚さが二、三センチ、フィレの場合は
五、六センチありますから、分量的には通常の倍は
あるんです。ですから、一枚をお二人で召し上がって
いただくなり、お年を召した方なら三人で十分です。
そうしますと、ステーキの値段としては決して安くは
ないが、まあ、質に合ったそこそこの値段ではない
かと考えておりますが、いかがでしょうか。


レンガ造りの炉について説明する風間氏
鈴木
 いただいて初めて価値が分かり、納得し美味しさに感激するのでしょう。素材の良さも
さることながら、調理にも工夫が色々おありなんでしょうね。

風間
 いってみればステーキというのも料理の一つですから、素材の風味を如何に上手に引
き出すかで勝負は決まってしまいます。それには使う部位、厚さ、火の通し方、焼き方
(食べる側の要望)の四つが揃わないと駄目ですね。
素材選びが難しい時代になってきた

鈴木
 素材そのものを生かして、一つのお料理に仕
上げるというのは、手の込んだお料理よりも難
しいかもしれませんね。こちらでは塩と胡椒だけ
で味付けをなさるそうですし、焼くときも独特の炉
を使われるとか。

風間
 自然の恵みをそのまま味わっていただきたい、
というのが私のモットーですから、味付けも
塩と胡椒だけにして召し上がっていただいて
おりますけど、肉の風味を損なわないように、
私どもで考案しました独自の炉で紀州の備長炭
を使い、肉を金串に刺して焙るように火を通して
焼いています。

美味しいものを食べるには、愛情を込めて育てた
素材が必要なんですね
鈴木
 普通は鉄板で焼きますよね、蓋をちょっと
かぶせて。目の前で焼いてもらうと、お肉の
焼けるときの音と香りで美味しさが一層
引き立つようで、見た目も恰好がいいのですけど。

風間
 鉄板ですと下からの熱しかありませんから、
結局、蓋をかぶせて蒸し焼きみたいな形に
しないと火が通りにくく、熱効率が悪いんです。
それで私どもでは全体がオーブンのように
なっている特注のレンガの炉で、四方から
肉の繊維に平行に火を入れて焼く方法を
とっています。こうすると備長炭と灰が出す薫煙の
作用で肉の旨味がじわりと滲み出てくるんです。
灰には何か不思議な働きがあるんでしょうか。
よく遠赤外線の効果が云云されますけど、私ども
専門の方では近赤外線、つまり波長の短い
赤外線と言っておりますけど、炭と灰からこの
「近赤」が出て早く焼き色が付くんです。レアから
ミディアムという風に段階を経るのには多少時間
がかかりますが、その間に灰がもっている作用を
ステーキが吸収して旨味が出てくるんですね。
ただ、肉質が悪いと炭と灰のエネルギーに負けて
しまって、美味しいステーキが出来ないんです。

            

鈴木
 まあ、炭と灰にはそんな目に見えない、すごいエネルギーがあるんですか。でも、いい
灰を手に入れようとすると、最近ではなかなか難しいですよね。お茶席で使う灰にしても
一袋いくらという時代ですものね。

風間
 灰だけでなく備長炭にしても原木の姥女樫(うばめがし)が少なくなってきていますから、
確保するのが段々に難しくなってきているようです。たまたま日本には炭の文化が伝統
として残されていますから、炭を使って焼く方法はこれからも追いかけて行きたいと考え
てはおりますけど。

鈴木
 お塩も吟味されるんでしょうね。

風間
 塩は使う量が少ないので、それほどこだわってはおりません。最近は天然塩が引っ張
りだこですけど、肉を焼く場合はニガリが強すぎると味に影響するんで使い方が難しい
んです。

鈴木
 蒲鉾の場合は、蒲鉾独特の弾力に富んだ食感のもとになるタンパク質を引き出すのに
塩はどうしても必要で、それも良質の塩でなくては駄目なんです。塩が専売の時代はやむ
を得ず精製塩を使っておりましたけど、今はすべて天然塩に切り換えました。

風間
 何にしても、よい素材を確保するのが難しい時代になりましたね。

鈴木
 遺伝子組み換え食品などが現れる時代ですものね。

風間
 牛の世界だってそうですよ。受精卵をレーザー光線で二つにカットして借り腹で育てた
牛とか、体細胞クローン牛なんかが市場に出回り始めていますからね。一頭一頭を愛
情込めて育てるような環境が失われつつありますし。三田なんかも牛を飼う農家が減る
一方で、後継者不足も大きな悩みです。いつまで但馬三田牛にこだわりつづけられるか
心配の種は尽きません。

鈴木
 やはり美味しいものを食べるには、愛情込めて育てた素材が必要になるんですね。ひ
とくちにビーフステーキといいますけど、お話をいろいろ伺っておりますと、奥の深いお料
理だということがよく分かりました素材選びや確保が難しい時代になりましたけど、私たち
食を提供させていただく営みをするものは、体に優しく、美味しいものづくりが任務になる
と思います。いつまでも美味しいステーキが食べられたらいいですね。今日はお忙しいな
かを有り難うございました。